語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【佐藤優】表面的情報に惑わされるな ~英諜報機関トップによる警告~

2015年01月20日 | ●佐藤優
 英国軍情報部第5課(MI5)という名称は偽装だ。本当は、内務省に所属する秘密情報部(Secret Service:SS)で、国内インテリジェンスを担当する機関だ。スパイ摘発とテロ防止がSSの主な業務だ。
 米国に比べて英国は、検閲や盗聴に対する規制がまだ緩い。また、SS職員は、氏名、職業、時には国籍を偽装して、さまざまな秘密活動に従事している。
 SSの幹部がマスメディアに登場することは、ほとんどない。
 しかし、1月8日、アンドリュー・パーカー・SS長官が、
 <シリアのイスラム過激派組織が欧米で無差別攻撃を計画していると述べた。交通機関や「象徴的な」場所が狙われる可能性があるとしている。
 7日にパリで12人が死亡する襲撃事件が起きたことを踏まえ、英国でも同様な事件が起こる可能性が高いと指摘。
 「シリアのアルカイダ系グループが、西側に対する無差別的攻撃を計画している」と述べた。>【注1】
 SSが、具体的なテロ計画に係る情報を得ていることは間違いない。

 1月7日、週刊誌「シャルリー・エブド」本社(フランスはパリの中心部にある)に2人のテロリストが押し入り、12人を射殺した。2人は現場から逃走し、ダマルタンアンゴエル(パリ北東)の印刷会社に人質をとって立て籠もった。9日、治安部隊が会社に突入し、容疑者2人を射殺した。
 2人は、アルジェリア系フランス人の兄弟で、死亡する直前、弟(シェリフ・クアシ)はテレビ局の電話インタビューに応じた。イエメンのアルカイダから資金援助を受けている、と述べた。

 この事件と連動して8日、パリ市内で、マリ系のアムディ・クリバリ容疑者が女性警察官を射殺し、9日、パリ東部のユダヤ人が経営する食料品店に立て籠もった。同日、治安部隊が突入し、容疑者を射殺、人質を解放した。ただし、人質のうち4人が死亡した。
 立て籠もっている最中、クリバリ容疑者はBFMTV(フランスのニュース専門テレビ局)の電話取材に応じた。
 <――なぜ、あなたたちはそこにいるのか?
 フランスが、「イスラム国」とカリフ(イスラム共同体の指導者)を攻撃したからだ。
 ――「イスラム国」から指示を受けているのか?
 そうだ。
 ――クアシ兄弟とつながっているのか?
 そうだ。私たちは、最初から連動していたので、同時に行動を起こした。彼らの標的は「シャルリー・エブド」で、私の標的は警官だった。
 ――あなたたちはお互いに今でもやりとりしているのか? 最近、彼らと電話で話したか?
 いや、していない。
 ――いま、そこにあなたのパートナー(アヤト・ブメディエン容疑者)も一緒にいるのか?
 いや、私1人だ。彼女はここにいない。
 ――そちらの店には人は何人いる?
 すでに死んだ4人と大人16人と子ども1人の計17人だ。(電話の向こうで誰かと話して)8人の女性がいる。
 ――あなたは何を求めているのか?
 私は、フランスが、今戦っている「イスラム国」やイスラムと戦っている場所から手を引くことを求めている。交渉の準備はできている。警察に私に電話をするように言ってくれ。
 ――あなたはどのグループに所属しているのか?
 「イスラム国」だ。>【注2】

 「イスラム国とアルカイダは袂を分かっている」という表面的情報に惑わされてはならない。
 イスラム過激派は、世界イスラム革命を目指して本格的策動を始めた。パーカー長官は、そのことを冷徹に認識している。

 【注1】記事「シリアのアルカイダ系組織、欧米で無差別攻撃計画=英MI5長官」(ロイター 2015年 01月 9日)
 【注2】記事「「イスラム国」から手を引け アルカイダ系が資金援助 仏立てこもり容疑者ら語る」(朝日新聞デジタル 2015年1月11日)

□佐藤優「英諜報機関のトップが発した「警告」の意味 ~佐藤優の人間観察 第97回~」(「週刊現代」2015年1月31日号)
     ↓クリック、プリーズ。↓
にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ  人気ブログランキングへ  blogram投票ボタン

 【参考】
【佐藤優】世界各地のテロリストが「大規模テロ」に走る理由
【佐藤優】ロシアが中立国へ送った「シグナル」 ~ペーテル・フルトクビスト~
【佐藤優】戦争の時代としての21世紀
【佐藤優】「拷問」を行わない諜報機関はない ~CIA尋問官のリンチ~
【佐藤優】米国の「人種差別」は終わっていない ~白人至上主義~
【佐藤優】【原発】推進を図るロシア ~セルゲイ・キリエンコ~
【佐藤優】【沖縄】辺野古への新基地建設は絶対に不可能だ
【佐藤優】沖縄の人の間で急速に広がる「変化」の本質 ~民族問題~
【佐藤優】「イスラム国」という組織の本質 ~アブバクル・バグダディ~
【佐藤優】ウクライナ東部 選挙で選ばれた「謎の男」 ~アレクサンドル・ザハルチェンコ~
【佐藤優】ロシアの隣国フィンランドの「処世術」 ~冷戦時代も今も~
【佐藤優】さりげなくテレビに出た「対日工作担当」 ~アナートリー・コーシキン~
【佐藤優】外交オンチの福田元首相 ~中国政府が示した「条件」~
【佐藤優】この機会に「国名表記」を変えるべき理由 ~ギオルギ・マルグベラシビリ~
【佐藤優】安倍政権の孤立主義的外交 ~米国は中東の泥沼へ再び~
【佐藤優】安倍政権の消極的外交 ~プーチンの勝利~
【佐藤優】ロシアはウクライナで「勝った」のか ~セルゲイ・ラブロフ~
【佐藤優】貪欲な資本主義へ抵抗の芽 ~揺らぐ国民国家~
【佐藤優】スコットランド「独立運動」は終わらず
「森訪露」で浮かび上がった路線対立
【佐藤優】イスラエルとパレスチナ、戦いの「発端」 ~サレフ・アル=アールーリ~
【佐藤優】水面下で進むアメリカvs.ドイツの「スパイ戦」
【佐藤優】ロシアの「報復」 ~日本が対象から外された理由~
【佐藤優】ウクライナ政権の「ネオナチ」と「任侠団体」 ~ビタリー・クリチコ~
【佐藤優】東西冷戦を終わらせた現実主義者の死 ~シェワルナゼ~
【佐藤優】日本は「戦争ができる」国になったのか ~閣議決定の限界~
【ウクライナ】内戦に米国の傭兵が関与 ~CIA~
【佐藤優】日本が「軍事貢献」を要求される日 ~イラクの過激派~
【佐藤優】イランがイラク情勢を懸念する理由 ~ハサン・ロウハニ~
【佐藤優】新・帝国時代の到来を端的に示すG7コミュニケ
【佐藤優】集団的自衛権、憲法改正 ~ウクライナから沖縄へ(4)~ 
【佐藤優】スコットランド、ベルギー、沖縄 ~ウクライナから沖縄へ(3)~ 
【佐藤優】遠隔地ナショナリズム ~ウクライナから沖縄へ(2)~
【佐藤優】ユニエイト教会 ~ウクライナから沖縄へ(1)~ 
【佐藤優】独裁者の「再選」が放置される理由 ~バッシャール・アル=アサド~
【佐藤優】経済と政治を行き来する新大統領の過去 ~ペトロ・ポロシェンコ~
【佐藤優】安倍首相とイスラエル首相「声明」の意味 ~ベンヤミン・ネタニヤフ~
【佐藤優】ロシアが送り込んだ「曲者」の正体 ~ウラジーミル・ルキン~
【佐藤優】ロシアは日本をどう見ているか ~日本外相の訪露延期~
【佐藤優】ウクライナ衝突の「伏線」 ~オレクサンドル・トゥルチノフ~
【ウクライナ】危機の深層(2) ~ブラック経済~
【ウクライナ】危機の深層(1) ~天然ガス~
【ウクライナ】エネルギー・集団的自衛権・尖閣問題 ~日本外交のジレンマ(3)~
【ウクライナ】米国の迷走とロシアの急成長 ~日本外交のジレンマ(2)~
【ウクライナ】と日本との歴史的関係 ~日本外交のジレンマ(1)~
【佐藤優】ウクライナ危機と米国が陥った「恐露病」
【佐藤優】プーチン政権がついに発した「シグナル」の意味 ~ロシア外交~
【佐藤優】プーチンは「世界のルール」を変えるつもりだ ~クリミア併合~
【ウクライナ】暫定政権の中枢を掌握するネオナチ ~クリミア併合の背景~
【佐藤優】北方領土返還のルールが変化 ~ロシアのクリミア併合~
【佐藤優】ロシアが危惧するのは軍産技術の米流出 ~ウクライナ~
【佐藤優】新冷戦ではなく帝国主義的抗争 ~ウクライナ~~
【佐藤優】クリミアで衝突する二大「帝国主義」 ~戦争の可能性~
【佐藤優】「動乱の半島」クリミアの三つ巴の対立 ~セルゲイ・アクショーノフ~
【佐藤優】ウクライナにおける対立の核心 ~ユリア・ティモシェンコ~
【ウクライナ】とEU間の、難航する協定締結に尽力するリトアニア
【佐藤優】ロシアとEUに引き裂かれる国 ~ウクライナ~

コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする