(1)1月7~9日、フランスで連続テロ事件が起きた。以後、国際社会のゲームのルールが変化した。フランス政府はこの変化を冷静に認識している。
<【パリ共同】17人が犠牲になったフランス連続テロの始まりとなった週刊紙銃撃から14日で1週間。バルス首相は13日、国民議会(下院)で「フランスは『テロとの戦争』に入った」と演説し、治安対策を強化する方針を示した。国境を越えるイスラム過激派の脅威に対し、言論の自由を支持する各国指導者や市民の輪が広がったが、事件の全容解明や再発防止策の具体化は見通せない。
パリ警視庁では13日、死亡した警官を追悼する式典が行われ、出席したオランド大統領は「全フランスが苦痛を分かち合う」と哀悼の意を示した。その上で「自由のために一切の妥協を排し戦う」と述べた。(共同通信)>【注】
(2)バルス首相が強調するように、これは戦争だ。
連続テロ事件は、「イスラム国」(シリアとイラクの一部を占拠するイスラム教スンニー派過激組織)を支持するテロリストによって行われた。これは偶然ではない。
「イスラム国」は、21世紀に、唯一神アラーの法(シャリーア)だけが支配する単一のイスラム帝国(カリフ帝国)を本気で建設しようとしている。この目的達成のためには、平気で暴力やテロに訴える。そのための拠点組織が「イスラム国」だ。
(3)かつてコミンテルン(共産主義インターナショナル)は、世界プロレタリア革命を起こそうと真剣に考えていた。そのための拠点国家がソ連だった。コミンテルン本部は、モスクワ郊外に置かれた。この本部の指令に、各国に設置された共産党支部は従い、革命運動に従事した。
コミンテルンと類推させると、「イスラム国」のやっていることがよくわかる。「イスラム国」は、世界イスラム革命に本気で着手したのだ。
もっともソ連は、国際法を遵守する国家だと主張し、コミンテルンとは無関係だと主張した。
これに対して「イスラム国」は、国際法を完全に無視し、国際社会の秩序を直ちに覆そうとしている。
(4)世界イスラム革命の影響は日本にも及んでいる。
1月20日、「イスラム国」の構成員と見られる男が日本人2人の身代金を要求する画像がYou Tubeに流れた。
(5)安倍首相は中東を歴訪し、「イスラム国」対策として2億ドルを支援する、と表明した。その額と同額の身代金を、当初テロリストは要求した。
しかし、首相の中東訪問がテロ行為を誘発した、と見ると事柄の本質を捉え損ねる。日本人人質事件は、フランスの連続テロと同じ文脈で理解すべきだ。「イスラム国」は、暴力によって世界イスラム革命を実現しようと決めた。既存の国家秩序、国際法、普遍的価値観を遵守する日本も、欧米、ロシア、同様に打倒対象とされているのだ。
今回、首相が中東を訪れなかったとしても、いずれ「イスラム国」はこの種の脅迫を行ったはずだ。
【注】記事「仏「テロとの戦争」宣言 大統領、警官を追悼」(京都新聞デジタル 2015年01月14日)
□佐藤優「「イスラム国」が世界革命に本気で着手した ~佐藤優の人間観察 第98回~」(「週刊現代」2015年2月7日号)
↓クリック、プリーズ。↓
【参考】
「【佐藤優】「イスラム国」の正体 ~国家の新しいあり方~」
「【佐藤優】スンニー派とシーア派 ~「イスラム国」で中東が大混乱(4)~」
「【佐藤優】サウジアラビア ~「イスラム国」で中東が大混乱(3)~」
「【佐藤優】米国とイランの接近 ~「イスラム国」で中東が大混乱(2)~」
「【佐藤優】シリア問題 ~「イスラム国」で中東が大混乱(1)~」
「【佐藤優】イスラム過激派による自爆テロをどう理解するか ~『邪宗門』~」
「【佐藤優】の実践ゼミ(抄)」
「【佐藤優】の略歴」
「【佐藤優】表面的情報に惑わされるな ~英諜報機関トップによる警告~」
「【佐藤優】世界各地のテロリストが「大規模テロ」に走る理由」
「【佐藤優】ロシアが中立国へ送った「シグナル」 ~ペーテル・フルトクビスト~」
「【佐藤優】戦争の時代としての21世紀」
「【佐藤優】「拷問」を行わない諜報機関はない ~CIA尋問官のリンチ~」
「【佐藤優】米国の「人種差別」は終わっていない ~白人至上主義~」
「【佐藤優】【原発】推進を図るロシア ~セルゲイ・キリエンコ~」
「【佐藤優】【沖縄】辺野古への新基地建設は絶対に不可能だ」
「【佐藤優】沖縄の人の間で急速に広がる「変化」の本質 ~民族問題~」
「【佐藤優】「イスラム国」という組織の本質 ~アブバクル・バグダディ~」
「【佐藤優】ウクライナ東部 選挙で選ばれた「謎の男」 ~アレクサンドル・ザハルチェンコ~」
「【佐藤優】ロシアの隣国フィンランドの「処世術」 ~冷戦時代も今も~」
「【佐藤優】さりげなくテレビに出た「対日工作担当」 ~アナートリー・コーシキン~」
「【佐藤優】外交オンチの福田元首相 ~中国政府が示した「条件」~」
「【佐藤優】この機会に「国名表記」を変えるべき理由 ~ギオルギ・マルグベラシビリ~」
「【佐藤優】安倍政権の孤立主義的外交 ~米国は中東の泥沼へ再び~」
「【佐藤優】安倍政権の消極的外交 ~プーチンの勝利~」
「【佐藤優】ロシアはウクライナで「勝った」のか ~セルゲイ・ラブロフ~」
「【佐藤優】貪欲な資本主義へ抵抗の芽 ~揺らぐ国民国家~」
「【佐藤優】スコットランド「独立運動」は終わらず」
「「森訪露」で浮かび上がった路線対立」
「【佐藤優】イスラエルとパレスチナ、戦いの「発端」 ~サレフ・アル=アールーリ~」
「【佐藤優】水面下で進むアメリカvs.ドイツの「スパイ戦」」
「【佐藤優】ロシアの「報復」 ~日本が対象から外された理由~」
「【佐藤優】ウクライナ政権の「ネオナチ」と「任侠団体」 ~ビタリー・クリチコ~」
「【佐藤優】東西冷戦を終わらせた現実主義者の死 ~シェワルナゼ~」
「【佐藤優】日本は「戦争ができる」国になったのか ~閣議決定の限界~」
「【ウクライナ】内戦に米国の傭兵が関与 ~CIA~」
「【佐藤優】日本が「軍事貢献」を要求される日 ~イラクの過激派~」
「【佐藤優】イランがイラク情勢を懸念する理由 ~ハサン・ロウハニ~」
「【佐藤優】新・帝国時代の到来を端的に示すG7コミュニケ」
「【佐藤優】集団的自衛権、憲法改正 ~ウクライナから沖縄へ(4)~ 」
「【佐藤優】スコットランド、ベルギー、沖縄 ~ウクライナから沖縄へ(3)~ 」
「【佐藤優】遠隔地ナショナリズム ~ウクライナから沖縄へ(2)~」
「【佐藤優】ユニエイト教会 ~ウクライナから沖縄へ(1)~ 」
<【パリ共同】17人が犠牲になったフランス連続テロの始まりとなった週刊紙銃撃から14日で1週間。バルス首相は13日、国民議会(下院)で「フランスは『テロとの戦争』に入った」と演説し、治安対策を強化する方針を示した。国境を越えるイスラム過激派の脅威に対し、言論の自由を支持する各国指導者や市民の輪が広がったが、事件の全容解明や再発防止策の具体化は見通せない。
パリ警視庁では13日、死亡した警官を追悼する式典が行われ、出席したオランド大統領は「全フランスが苦痛を分かち合う」と哀悼の意を示した。その上で「自由のために一切の妥協を排し戦う」と述べた。(共同通信)>【注】
(2)バルス首相が強調するように、これは戦争だ。
連続テロ事件は、「イスラム国」(シリアとイラクの一部を占拠するイスラム教スンニー派過激組織)を支持するテロリストによって行われた。これは偶然ではない。
「イスラム国」は、21世紀に、唯一神アラーの法(シャリーア)だけが支配する単一のイスラム帝国(カリフ帝国)を本気で建設しようとしている。この目的達成のためには、平気で暴力やテロに訴える。そのための拠点組織が「イスラム国」だ。
(3)かつてコミンテルン(共産主義インターナショナル)は、世界プロレタリア革命を起こそうと真剣に考えていた。そのための拠点国家がソ連だった。コミンテルン本部は、モスクワ郊外に置かれた。この本部の指令に、各国に設置された共産党支部は従い、革命運動に従事した。
コミンテルンと類推させると、「イスラム国」のやっていることがよくわかる。「イスラム国」は、世界イスラム革命に本気で着手したのだ。
もっともソ連は、国際法を遵守する国家だと主張し、コミンテルンとは無関係だと主張した。
これに対して「イスラム国」は、国際法を完全に無視し、国際社会の秩序を直ちに覆そうとしている。
(4)世界イスラム革命の影響は日本にも及んでいる。
1月20日、「イスラム国」の構成員と見られる男が日本人2人の身代金を要求する画像がYou Tubeに流れた。
(5)安倍首相は中東を歴訪し、「イスラム国」対策として2億ドルを支援する、と表明した。その額と同額の身代金を、当初テロリストは要求した。
しかし、首相の中東訪問がテロ行為を誘発した、と見ると事柄の本質を捉え損ねる。日本人人質事件は、フランスの連続テロと同じ文脈で理解すべきだ。「イスラム国」は、暴力によって世界イスラム革命を実現しようと決めた。既存の国家秩序、国際法、普遍的価値観を遵守する日本も、欧米、ロシア、同様に打倒対象とされているのだ。
今回、首相が中東を訪れなかったとしても、いずれ「イスラム国」はこの種の脅迫を行ったはずだ。
【注】記事「仏「テロとの戦争」宣言 大統領、警官を追悼」(京都新聞デジタル 2015年01月14日)
□佐藤優「「イスラム国」が世界革命に本気で着手した ~佐藤優の人間観察 第98回~」(「週刊現代」2015年2月7日号)
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【参考】
「【佐藤優】「イスラム国」の正体 ~国家の新しいあり方~」
「【佐藤優】スンニー派とシーア派 ~「イスラム国」で中東が大混乱(4)~」
「【佐藤優】サウジアラビア ~「イスラム国」で中東が大混乱(3)~」
「【佐藤優】米国とイランの接近 ~「イスラム国」で中東が大混乱(2)~」
「【佐藤優】シリア問題 ~「イスラム国」で中東が大混乱(1)~」
「【佐藤優】イスラム過激派による自爆テロをどう理解するか ~『邪宗門』~」
「【佐藤優】の実践ゼミ(抄)」
「【佐藤優】の略歴」
「【佐藤優】表面的情報に惑わされるな ~英諜報機関トップによる警告~」
「【佐藤優】世界各地のテロリストが「大規模テロ」に走る理由」
「【佐藤優】ロシアが中立国へ送った「シグナル」 ~ペーテル・フルトクビスト~」
「【佐藤優】戦争の時代としての21世紀」
「【佐藤優】「拷問」を行わない諜報機関はない ~CIA尋問官のリンチ~」
「【佐藤優】米国の「人種差別」は終わっていない ~白人至上主義~」
「【佐藤優】【原発】推進を図るロシア ~セルゲイ・キリエンコ~」
「【佐藤優】【沖縄】辺野古への新基地建設は絶対に不可能だ」
「【佐藤優】沖縄の人の間で急速に広がる「変化」の本質 ~民族問題~」
「【佐藤優】「イスラム国」という組織の本質 ~アブバクル・バグダディ~」
「【佐藤優】ウクライナ東部 選挙で選ばれた「謎の男」 ~アレクサンドル・ザハルチェンコ~」
「【佐藤優】ロシアの隣国フィンランドの「処世術」 ~冷戦時代も今も~」
「【佐藤優】さりげなくテレビに出た「対日工作担当」 ~アナートリー・コーシキン~」
「【佐藤優】外交オンチの福田元首相 ~中国政府が示した「条件」~」
「【佐藤優】この機会に「国名表記」を変えるべき理由 ~ギオルギ・マルグベラシビリ~」
「【佐藤優】安倍政権の孤立主義的外交 ~米国は中東の泥沼へ再び~」
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「【佐藤優】ロシアはウクライナで「勝った」のか ~セルゲイ・ラブロフ~」
「【佐藤優】貪欲な資本主義へ抵抗の芽 ~揺らぐ国民国家~」
「【佐藤優】スコットランド「独立運動」は終わらず」
「「森訪露」で浮かび上がった路線対立」
「【佐藤優】イスラエルとパレスチナ、戦いの「発端」 ~サレフ・アル=アールーリ~」
「【佐藤優】水面下で進むアメリカvs.ドイツの「スパイ戦」」
「【佐藤優】ロシアの「報復」 ~日本が対象から外された理由~」
「【佐藤優】ウクライナ政権の「ネオナチ」と「任侠団体」 ~ビタリー・クリチコ~」
「【佐藤優】東西冷戦を終わらせた現実主義者の死 ~シェワルナゼ~」
「【佐藤優】日本は「戦争ができる」国になったのか ~閣議決定の限界~」
「【ウクライナ】内戦に米国の傭兵が関与 ~CIA~」
「【佐藤優】日本が「軍事貢献」を要求される日 ~イラクの過激派~」
「【佐藤優】イランがイラク情勢を懸念する理由 ~ハサン・ロウハニ~」
「【佐藤優】新・帝国時代の到来を端的に示すG7コミュニケ」
「【佐藤優】集団的自衛権、憲法改正 ~ウクライナから沖縄へ(4)~ 」
「【佐藤優】スコットランド、ベルギー、沖縄 ~ウクライナから沖縄へ(3)~ 」
「【佐藤優】遠隔地ナショナリズム ~ウクライナから沖縄へ(2)~」
「【佐藤優】ユニエイト教会 ~ウクライナから沖縄へ(1)~ 」