語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【佐藤優】の実践ゼミ(抄)

2015年01月22日 | ●佐藤優
 『佐藤優の実践ゼミ』の「あとがき」によれば、2015年、佐藤優が職業作家になって、まる10年になる。
 デビュー作は『国家の罠 ~外務省のラスプーチンと呼ばれて~』(新潮社、2005。後に新潮文庫、2007)で、第59回毎日出版文化賞特別賞を受賞した。
 いわく、<この10年間、無我夢中で走ってきたが、このあたりで自分の作家生活について中間総括をしたい>。
 本書は、過去の論考、対談などを再編したムックである。外交官時代から現在に至るまで20年以上にわたる幅広いテーマが含まれる。<これで佐藤優の思考法が浮き彫りになる>から、そのさわりを二、三拾ってみる。

(1)第1講座 ビジネスマンがすぐ実行すべき知の極意27カ条
●Ⅰ人物をどう見分けるか
 一番重要なのは「直感」。最初の直感が、この人はどこか波長が合わないとか、丁寧だけれどどこか違和感があると感じた場合は、だいたい後で何らかのトラブルが起きる。こういう「直感」がささやく相手とは、極力縁を持たない(第一印象から後の修正は、常に心がけておくにせよ)。
 そういう人とも付き合わざるを得ない場面も出てくる。その場合、自分が相手に対して何を発言したかを覚えておくこと。
 人物の見分け方は各論となる。
 一般論として、信用できるのは、自分が知っている範囲の事柄について正確なことを述べる人だ。
 <例>中国について、最初に相手の知識の度合いを測っておくためにちょっとしたジャブの応酬を行う。中国の10年後の人口に関する予測を訊いて、「ずいぶん増えるでしょうから、7、8億人にはなっているでしょう」「現在の人口は40億人ですから、10年後には100億人に達するでしょう」と答えたら、いくら習近平体制に詳しかろうと、基本的な人口も押さえていない人の話は当てにならない。
 それと、初対面のときには、相手の服装、持ち物、小物に対して注意を払う。アンバランスな格好をしている人は変な人が多い。極度にアンバランスなところがある人は、アンバランスな考えを持った人であることが多い。アンバランスな精神は外に出てくるのだ。
 <例>オーダーメイドのスーツに安いクオーツ時計。ユニクロのトレーナーを着ているのに、エルメスのバッグを持っている。
 極意①自分が相手に対して何を発言したかを覚えておく。 
 極意②自分が知っている範囲の事柄について正確なことを述べる人だ。
 極意③初対面のときには、相手の服装、持ち物、小物に対して注意を払う。

(2)第2講座 知をビジネスに取り込む
●凡人が生き抜く話術7か条
 社会を生き抜くために必要な力は、一般に言われていることとは逆だ。「誰とも仲良く円滑な人間関係をつくる」なんて重要じゃない。本当の友だちが5人いれば十分だ。無理と思う相手からは体をかわして逃げればいい。よって、「第1条 友だちは5人でいい」。 
 第3条は「読む力が話す力になる」。小説を読んでさまざまな代理経験を積むことは、自分や他者への視界を広げ、硬くなりがちな思考を軟らかくしてくれる。語彙や表現も増える。論理立った思考や話し方を目指すなら、大学入試の現代国語の問題が最適だ。論理の展開や要約、言葉の言い換えなど、実践的な力をつけられる。
 第1条 友だちは5人でいい。 
 第2条 敬語は丁寧語だけでいい。
 第3条 読む力が話す力になる。
 第4条 辛いときは人間関係の損切りをせよ。
 第5条 「猫」「鉄道」など、心を通わせるものについて語れ。
 第6条 年上より年下と話すべし。
 第7条 中途半端な英語は話せないほうがいい。

(3)第6講座 intermission 佐藤優の知的技術のヒント
 蔵書は約4万冊。生涯書籍代は約6,000万円。
 <今までに本代として使った金額は、学生時代が総額500万円ぐらい。卒業後は、月に15万円で年間180万円、それが30年ですから、ざっくり言って6,000万円というところでしょうか。
 私は、仕事場が4つありまして、仕事の種類で移動します。この部屋は、哲学・思想・経済用の部屋です。追いかけられてやるような、ジャーナリズムは自宅の3階でやります。ロシア系や沖縄のことをやるときには、別のマンションにある部屋でやります。箱根の別荘の仕事場には、文学と、すぐには使わないロシア語とチェコ語のものが相当あります。
 上の写真は執筆机にいちばん近い右手の本棚ですが、よく使う辞書類と、現在の関心の中心となる本を置きます。『ファイナンシャル エンジニアリング デリバティブ取引とリスク管理の総体系』とか、ちょっと古いけれども『サムエルソン 経済学(上・下)』とか、スタンダードなイスラム史の本ですが、『The Oxford History of Isram』、そんなものが並んでいます。ここにある本はしばしば入れ替わります。>
 蔵書数の多さに比較して、書く方は非常に簡素だ。佐藤は1冊のノートにすべてをまとめる。
 読んだ本の抜き書き、スケジュール、日記、語学の練習問題の解答、etc.。とにかく記録、仕事、学習に関することすべてを1冊に記す。

(4)第7講座 情報を拾う、情報を使う
●僕たちの情報収集術? 【池上彰×佐藤優】
<池上 (前略)ネットは確かに便利なんですけれど、上手な付き合い方が必要ですね。やっぱり情報収集の基本は新聞を読むことにあると思います。
 (中略)
 佐藤 これからの時代、中産階級は二分化されて、上層は富裕層に近づき、下層はプロレタリアートに近づくと思います。その分水嶺が「新聞を読んでいるかどうか」になってくるでしょう。
 池上 イギリスだと、どの新聞を読んでいるかで階層がわかりますからね。
 佐藤 日本の場合、一般紙のほとんどが高級紙ですから、新聞を読んでいる=アッパーミドル以上です。それに対してネットとスマホに頼っている人は将来のプロレタリアート予備軍。つまり上に行きたかったら新聞を読めということ。その点はよ~く考えたほうがいいと思う。
 (中略)
 池上 それから、本を買うときは書店に行くことも大事。何らかの問題意識が頭の片隅にあると、背表紙のタイトルが向こうから飛び込んできます。学問の世界におけるセレンディピティ【注2】といっしょですね。
 佐藤 世の中に情報は際限なくあるわけで、教養人としては「ここまで得られればいい」という見切りも必要。時間もコストも度外視して、ひたすら情報を集めるのはオタクの領域です。
 池上 そういう意味では、いつもアウトプットを意識したほうがいいいですね。たとえば、読んだ本について人に語ろうと思ったら、内容を頭の中できちんと整理するでしょう。おしゃべりの好きな人は仕入れた知識をどんどん人に話すのがいいと思います。情報というのはポンプの誘い水といっしょで、アウトプットの道ができれば、インプットの効率も自然によくなるものなんです。>

 【注1】「【佐藤優】『佐藤優の実践ゼミ』目次
 【注2】思いがけないものを発見する能力。とくに科学分野で失敗が思わぬ大発見につながったときなどに使われる。

□佐藤優『佐藤優の実践ゼミ』(「文藝春秋」2015年2月臨時増刊号)
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 【参考】
【佐藤優】の略歴
【佐藤優】表面的情報に惑わされるな ~英諜報機関トップによる警告~
【佐藤優】世界各地のテロリストが「大規模テロ」に走る理由
【佐藤優】ロシアが中立国へ送った「シグナル」 ~ペーテル・フルトクビスト~
【佐藤優】戦争の時代としての21世紀
【佐藤優】「拷問」を行わない諜報機関はない ~CIA尋問官のリンチ~
【佐藤優】米国の「人種差別」は終わっていない ~白人至上主義~
【佐藤優】【原発】推進を図るロシア ~セルゲイ・キリエンコ~
【佐藤優】【沖縄】辺野古への新基地建設は絶対に不可能だ
【佐藤優】沖縄の人の間で急速に広がる「変化」の本質 ~民族問題~
【佐藤優】「イスラム国」という組織の本質 ~アブバクル・バグダディ~
【佐藤優】ウクライナ東部 選挙で選ばれた「謎の男」 ~アレクサンドル・ザハルチェンコ~
【佐藤優】ロシアの隣国フィンランドの「処世術」 ~冷戦時代も今も~
【佐藤優】さりげなくテレビに出た「対日工作担当」 ~アナートリー・コーシキン~
【佐藤優】外交オンチの福田元首相 ~中国政府が示した「条件」~
【佐藤優】この機会に「国名表記」を変えるべき理由 ~ギオルギ・マルグベラシビリ~
【佐藤優】安倍政権の孤立主義的外交 ~米国は中東の泥沼へ再び~
【佐藤優】安倍政権の消極的外交 ~プーチンの勝利~
【佐藤優】ロシアはウクライナで「勝った」のか ~セルゲイ・ラブロフ~
【佐藤優】貪欲な資本主義へ抵抗の芽 ~揺らぐ国民国家~
【佐藤優】スコットランド「独立運動」は終わらず
「森訪露」で浮かび上がった路線対立
【佐藤優】イスラエルとパレスチナ、戦いの「発端」 ~サレフ・アル=アールーリ~
【佐藤優】水面下で進むアメリカvs.ドイツの「スパイ戦」
【佐藤優】ロシアの「報復」 ~日本が対象から外された理由~
【佐藤優】ウクライナ政権の「ネオナチ」と「任侠団体」 ~ビタリー・クリチコ~
【佐藤優】東西冷戦を終わらせた現実主義者の死 ~シェワルナゼ~
【佐藤優】日本は「戦争ができる」国になったのか ~閣議決定の限界~
【ウクライナ】内戦に米国の傭兵が関与 ~CIA~
【佐藤優】日本が「軍事貢献」を要求される日 ~イラクの過激派~
【佐藤優】イランがイラク情勢を懸念する理由 ~ハサン・ロウハニ~
【佐藤優】新・帝国時代の到来を端的に示すG7コミュニケ
【佐藤優】集団的自衛権、憲法改正 ~ウクライナから沖縄へ(4)~ 
【佐藤優】スコットランド、ベルギー、沖縄 ~ウクライナから沖縄へ(3)~ 
【佐藤優】遠隔地ナショナリズム ~ウクライナから沖縄へ(2)~
【佐藤優】ユニエイト教会 ~ウクライナから沖縄へ(1)~ 

   
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【佐藤優】の略歴

2015年01月22日 | ●佐藤優
(1)学生以前(~1975.3.31.)
 ・1960年1月18日、現・さいたま市にて生まる。
 ・1975年、埼玉県立浦和高校1年生の夏、スイス、西ドイツ、チェコスロバキア、ポーランド、ハンガリー、ルーマニア、ソ連(ロシア、ウクライナ、ウズベキスタン)を一人旅。

(2)同志社大学生、同院生の時代(1975.4.1.~1985.3.30.)
 ・一浪後、同大神学部へ入学。組織神学、無神論を学ぶ。
 ・同大大学院神学研究科前期課程へ進学。「チェコスロバキアの社会主義政権とプロテスタント神学の関係について」をテーマに研究。修了後、神学修士。

(3)外務事務官時代(1) ~入省、留学~(1985.4.1.~1987.8.末)
 ・1985年4月、ノンキャリア専門職員として外務省に入省。同年5月、欧亜局に配備。1986年、英国陸軍語学学校に留学後、1987年8月末、モスクワ国立大学言語学部に留学。

(4)外務事務官時代(2) ~ソ連大使館赴任、ソ連解体、ロシア大使館離任~(1987.8.末~1995.3.末)
 ・1988年から1995年まで在ソ連・在ロシア日本国大使館に勤務(政務班)。
 ・1991年8月、クーデターの際、それまでに築き上げた人脈を駆使し、ミハイル・ゴルバチョフ大統領の生死について米国より早く情報を得、外務本省へ連絡した。当時のブッシュ大統領いわく、「ワンダフル!」。
 ・モスクワ大学哲学部宗教史宗教哲学科(新設)の講師(弁証法神学)を兼務。

(5)外務事務官時代(3) ~本省勤務、外交史料館勤務、逮捕・収監、休職~(1995.4.1~2009.6.30.)
 ・1998年、国際情報局分析第一課主任分析官(課長補佐級)。クラスノヤルスク会談(橋本龍太郎・首相とボリス・エリツィン大統領)に基づく2000年までに締結をめざす日露平和条約のために交渉した。
 ・東京大学教養学部の非常勤講師(ユーラシア地域変動論)を兼務。
 ・鈴木宗男に係る疑惑が浮上し、連座させられる形で2002年2月22日、外交史料館へ異動。
 ・2002年5月14日、鈴木宗男事件に絡む背任容疑で逮捕。同年7月3日、偽計業務妨害容疑で再逮捕。2003年10月、保釈。
 ・2002年2月、東京地方裁判所(安井久治裁判長)で執行猶予付き有罪判決。控訴。2007年1月31日、東京高等裁判所(高橋省吾裁判長)で控訴を棄却。2009年6月30日、最高裁判所第3小法廷(那須弘平裁判長)で、上告棄却。期限の7月6日までに異議申立てをおこなわなかったため、判決が確定。国家公務員法76条に基づき失職。

(6)民間人時代(2009.7.1.~)
 控訴中の2005年に『国家の罠 外務省のラスプーチンと呼ばれて』【注1】を刊行。
 外務省を離れて後、文筆を専業とする【注2】。

 【注1】「【読書余滴】佐藤優回想録 ~青春、留学、インテリジェンス、ソ連解体、国家の罠~
 【注2】業績の一部はこちら。「【佐藤優】書誌」。

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