ほぼ週刊イケヤ新聞ブログ版

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ホールで演奏を聴くことが、どれだけ貴重でかけがえのないことになってしまったのか

2020年06月23日 16時04分16秒 | コンサートレビュー

私は自分で演奏もするが、ライブもよく見る人間で、観に行くライブはジャズがほとんどだが、週に1回は(ほんとうはもっとたくさん見たいが、なんとか1回に抑えていた、抑えられないことも多々あった)ライブを見る人間だった。

ライブハウスの客席で演奏を聴くことは、人生でも最上級の幸せのひとつだ。しかしコロナが話題になった頃から、ライブに行く数は激減し、緊急事態宣言以降はあらゆるコンサート、演奏会、ライブハウスが閉鎖されたため、ライブ演奏を聞く機会は絶無となった。

生演奏ではない、再生演奏は聴いていた。今でも聴いている。私はAppleミュージック、Spotify、soundcloud、Amazon Music、YouTubeとなんでもこいとばかりサブスクリプションでも好きな音楽を聴いていて、一日に音楽を聴いている時間は、普通の人よりかなり長いはずだ。仕事をしながらヘッドホンやスピーカーできいているわけだが。

生演奏を聞く機会が減った分だけ、再生音源を聞く時間は間違えなく増えたはずだし、ロックアウト期間、家にずっといることが辛かったのでやたらと散歩に出た。一時間以上はザラだったが、その時もずっとワイヤレスヘッドホンで音楽を聴き続けている。ベイビードライバーなみにな。

6月からはジャズ系のライブハウスも再開しているが、家族に基礎疾患を持つものがいるため、現状ではまだライブハウスには出かけていない。

そんな状況の中、仕事絡みで、6/18に東京芸術劇場で開催された、都内の公共ホールではコロナ後初のパイプオルガンコンサートを聞く機会に恵まれたのだった。

キャパ1,999席の座席で、わずか100名。これは東京都のステップ2に準拠したキャパだ。入場時にはマスク着用、入り口で検温。対面でのやりとりを避けるためチケットは自分でもぎる。劇場スタッフはフェイスマスクにマスク着用。パンフレット類は机にあるものを自分でとっていく。クロークやクローズ。ラウンジの椅子は三人掛けの真ん中に座ってはいけないマーク。

ホールに入る。席はひとつおきに「座ってはいけない」マーク。

今まで普通に聴けていたホールでのコンサートが、コロナ禍で三密を避けるために支払うコストは、かくも大きい。大きな2000人のホールにパラパラと100人が座る。そしてパイプオルガン奏者が登場する。満場の拍手。100人だが、みんなが一生懸命叩いている。自分が手を叩く、そして同じように手を叩いている人が周りにいる。

この当たり前の環境が、涙が出るほど懐かしく感じられる。

そしてパイプオルガンが鳴る。

大きなパイプがホールの空気を振動させる。

自分が弾く以外での、再生音でない楽器の音を聴いたのは何ヶ月ぶりだっただろうか。

決してクラシックが詳しいわけでも、ましてはパイプオルガンの曲に詳しいわけではないが、バッハのコーラルは、まさに渇いた心に染みた。

ホールや広い会場での生演奏は、いまや当方もない贅沢品、もしくはリスクを伴うものになってしまった。

でも両隣の席の分まで買ったとしても、やはり生演奏は聴くに値する素晴らしいものであることが身に染みてわかる。


パイプオルガンは、大ホールの空気を震えるほどの低音を響かせる。これは決して再生音源では感じることができないし、再生音でこの容積のホールを響かせることは、できない、いやできるが、意味がない。私にとって音楽は生活必需品であって、ヘッドフォンやスピーカーを使って、再生音源を毎日数時間聴いているわけだが、久々に聴いた生の音楽は、再生音とはまったく違う次元にあることを強く感じさせた。

こういう場合の比喩は不正確だし危険だが、あえていえば、カンズメ、レトルトパックを家で使ういつもの皿に不器用に盛ったような食事と、シェフが料理する一流のレストランで供される一皿、あるいは白木のカウンターに出されて食すにぎり寿司。そんな違いだ。どんなに貴重であろうと(リスキーであることは困るが)、やはり生の音楽が聴きたい。これが聴けないのであれば、正直いって、なんのために生まれてきたのだろうと思えるほどだ。そしてレトルトの食事に慣れてしまうのも怖ろしい。

(スティーリーダンとかビートルズ後期の音源とか、冨田ラボみたいに録音音源だからこそできる芸術はあって、それは否定しないし大好きだと細くしておく。)

ほんのひとつ、コロナ禍でいいことがあったとすれば、自分にとって音楽がどれだけ価値のある重要なことであるかを身に染みて感じることができたことだと、今私は悔し紛れに思っている。


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