ひとり旅への憧憬

気ままに、憧れを自由に。
そしてあるがままに旅の思い出を書いてみたい。
愛する山、そしてちょっとだけサッカーも♪

阿弥陀岳:樹林帯を越えて

2018年05月17日 23時59分46秒 | Weblog
厳冬期用のシュラフを用いているとはいえ、珍しく夜間は暖かく冷えや足下の寒さを感じることはなかった。

午前3時10分に起床。
「思っていたよりぐっすり眠れたな・・・」
率直な気持ちである。
テントから顔だけを出し夜空を見上げた。
月は見えなかったが、枝や葉の隙間から星が輝いているのがはっきりと見て取れた。
「よっしゃ、行ける!」
そう思うと体はごく自然に体内から目覚めてくるようだった。

お湯を沸かし目覚めの珈琲。
そしてFDの雑炊と餅しゃぶで朝食だ。
今日は長丁場となりそうなので十分にカロリーは摂取しなければならない。
本来であればビタミン類も必要なのだが、登山の場合栄養バランスはそれなりに制限されてしまう。
そこで登山の時に限っては「マルチビタミン剤」を服用している。
単に野菜不足を補うためであり、腹こそ満たされないが重宝しているサプリメントだ。

アタックザックの中身を確認。
ポケットの中を確認。
「残置無し、OK。」
外へ出てアイゼンを装着した。
「この前爪も限界だなぁ。そろそろこいつもお役ご免か。」
ふと寂しい思いに駆られた。
このアイゼンともかなりの雪山に登った。
そしてかなりの危険を共にしてきた。
そう考えると登山のギアというものはすべてに愛着が湧く。
「やっぱ捨てられないなぁ・・・だから女房にあれこれ言われるんだよなぁ・・・」

AM君も装着を済ませ、スタート前の一服。
じゃぁ俺も・・・ってことで一服をした。
「天候は問題なし。良い感じで登れると思うよ。」

午前5時丁度、テント場を出発した。

ヘッドライトの明かりを頼りに緩やかに雪道を上る。
徐々に勾配がきつくなってくるが、このルートは慣れたルートであり、いくつカーブを曲がると直線ルートになるか、そして峠まであとどれくらいかは熟知している。

中山峠に着く頃には空は白み始め、横岳の稜線がはっきりと見えてきた。

約40分ほどで行者小屋に到着した。
テントが一張りあった。
まだ就寝中のようであったので大きな音だけは出さないよう注意しながら小休止を取った。


この先暫くは樹林帯のルートとなる。
雪山ならではの、しかも樹林帯ならではの一定しないルートだ。
もちろんある程度は決まってはいるルートなのだが、安全性を確保できさへすればどこでもルートになってしまうのが雪山の特徴でもある。
だから一年前と全く同じルートであることの方が稀だ。

予想通りトレースは勝手気ままな感じで続いていた。
トレースの分岐もあった。
コンパスで方向だけを確認しながら登り続けたが、途中途中で見覚えのあるポイントがあった。


暑くなってきたこともあり、AM君はジャケットを脱いでいる。
自分もどうするか迷ったが、もう少し様子を見て体感できめることにした。

「ここさへ抜ければルートは安定するから頑張ろう。」
と、AM君に言ったつもりなのだが、自身への励みでもあった。
「こんなに斜度きつかったかな?」
何度も登っているルートではあったが、あまり踏み固められていない積雪の深さに体力が奪われそうだった。

やっとのこと樹林帯を抜け視界が広がった。
目の前の「文三郎尾根」を見上げた。
空が碧い。
風もない。
文句のつけようがない雪山登山日和に嬉しさがこみ上げてくる。

今登攀しているポイントはおそらくはネット状の階段になっているところだ。
しかしながら何度も何度も通っているこのルート、未だかつて夏に通ったことがない。
だから地図と資料を見て憶測で考えるほかなかった。

「ここを登り切ったら少しフラットになっているポイントがあるからそこで一本入れよう。」
実を言えばかなり汗をかいている。
喉も渇き始めたし、ジャケットを脱ぐか中間着を薄手にしようかと考えていた。

ふとふり返ってみた。
見事である。

見事なまでに雪を纏った北アルプス連峰が一望できた。
総延長距離は分からないがそれをほぼ一望できているわけだ。


ややアップの画像。

幾たびと思うことがある。
大自然は美しい。
しかし厳しくもあり時に牙を剝く。
だからその美しさは厳しさの中からしか生まれてこない。

尚のこと雪山は美しい。

しばし北アルプスに見とれてしまったが、先を急いだ。
「よっしゃ、一服するか!」
安心して座れそうなポイントで休んだ。
まだ腹は空いていなかったが水分・塩水だけは摂った


2500mを越えた早朝の雪山にいだかれ、北アルプスを見ながら煙草をふかす。
空は蒼く風もない。

今、俺はなんと贅沢なひとときを過ごしているのだろう。