ひとり旅への憧憬

気ままに、憧れを自由に。
そしてあるがままに旅の思い出を書いてみたい。
愛する山、そしてちょっとだけサッカーも♪

みんなで劔岳:劔御前での出来事

2017年09月27日 00時12分14秒 | Weblog
劔御前小舎に着き、昼食を兼ねて一息ついた。
ここから見る劔岳は、その全容を際だたせてくれる絶好のポイントなのだが、残念ながら雲の中だった。

今回は「劔御前まで行ってみたい」という自分の勝手なお願をした。
二人とも快く承諾してくれたのだが、劔御前がどのようなところであるのかが分からない。
もちろん自分も知らない。
今までさんざん劔御前小舎の場所で休憩をしておきながら、未だ一度も御前まで脚を踏み入れていないのだ。
何度か時間的余裕もありチャンスはあったのだが、悪天候とかの事情で叶わぬこととなった。

登り始めてすぐ、一瞬の雲の切れ間から劔が顔を覗かせた。

AM君、初めて見る間近での劔にハイテンション!
「主峰のてっぺんしか見えませんけど、凄いですね。登れるのかな・・・」
ちょっと不安が入り交じっているようだった。

這い松地帯に入ると・・・おやおや(笑)。

自分たちのすぐ目の前を雷鳥が歩いているではないか。
今日はそれほど荒天ではないので、まさか出会えるとは思ってもいなかった。
二人とも初めて見る雷鳥に感動の様子だ。

劔の主峰はずっと雲の中だったが、それでも劔岳に隣接する荒々しい岩峰が見え始めた。

「やっだぁー。明日こんな感じの所を登るんですよね。」
遂にKMさん、ビビってしまったかとも思ったが、「大丈夫! 一応20mのザイルは持ってきてあるから、いざとなれば俺とアンザイレンして登ればいいだけだよ。でも俺は非力だから無理だったら自力で頑張ってね(笑)。」


「どう、 テンション上がっちゃう?」
「はい、明日が楽しみです」
「いいねぇ、その調子だよ。」

コースタイムとしては、劔御前小舎から30分ほどで劔御前に着くはずだ。
そろそなのだが・・・と思っていると。

突如現れたプチ雪渓に思わずうつ伏せ。
「おぉ~気持ちいいー!」
何だかんだで火照った体だっただけに、一気に冷やしてくれる。
こりゃ快感だー!!

ほどなくして劔御前の三角点に到着したが、やはり主峰はガスの中だった。

KMさん、残念がってはいたが、カメラを向ければハイポーズとばかりに山ガールに変身。

もう少しだけここで待ってみようということになり、その数分後にほんの刹那だけ劔の主峰が見えた。

「あれじゃぁ分からないなぁ。まぁ三日間もいるんだから必ず見られるよ。」
確証はないが、是非ともあの畏怖心をもいだかせる岩峰を見せてあげたいと心から願っている。

帰り際に面白そうなポイントがあったので写真を撮った。

ちょっとやそっとの高所や危険ポイントは全く心配ないAM君。
これもひとえに自分のおかげだろう(笑)。


「えー! ギャー! ダメー! こんな高いところ無理!」
と言いつつも、なんとか登れたKMさん。
(明日、大丈夫かなぁ・・・)

来る時に雷鳥と出会ったポイントを過ぎたあたりだったろうか。
一枚の鋳物のプレートが埋め込まれている岩を目にした。
近寄ってみると、そのプレートには長文が記されていた。
要約すると、劔岳の源治郎尾根で滑落し亡くなられた山仲間の死を悼み、その哀悼の意を記したものだった。
その文章を読み終えた時、ある記憶が蘇った。
ちょうど一年前の7月、劔岳からの下山途中でのこと。
劔沢から別山乗越へ登っている途中で、初老の男性と出会い乗越まで一緒に行くことになった。
室堂まで一緒に下山するつもりだったのだが、乗越に着くとザックの中から一升瓶を取りだし「私はここでちょっと用があるので申し訳ないのですが失礼します。」
「どうしたんですか、その酒は・・・。」
「もうだいぶ前のことですけどね、私の山仲間が源治郎尾根で滑落して亡くなってしまったんですよ。この上にちょうど源治郎尾根がよく見えるポイントがあるんで、そこに行って彼の好きだったこれ(日本酒)をついであげるんですよ。あいつ、この酒が好きだったんですよねぇ。」
「そうですか。そんなことがあったんですか。でもきっとその人は喜ぶと思いますよ。」

亡くなった山仲間のことを話している時の顔が、あの時の淋しそうな目が忘れられない。


「そっか・・・これがあの時の・・・あの人が言っていたものだったんだ。」
小さく独り言を呟いた。

AM君とKMさんには申し訳なかったが、そのことを思い出してしまい「山においては避けることのできないこと」そして「遺された者」がいることを改めて思い知らされた。
ちょっとだけメランコリーになってしまった自分だった。

しかし気落ちしてばかりはいられない。
慎重に登攀し、無事下山することが大前提であるのが登山。
そこにわずかでも楽しさや胸高鳴る感動が加わってくれればそれだけで十分だ。
そう、相手は天下の劔岳だ。