山あいの林間を散策しているとき,偶然マムシグサを見かけました。林道の脇に生えた草の間から,茎がニョキッと飛び出していました。
「久しぶりだなあ」と思って,辺りを見ていくと,向こうの方にたくさん生えているのが目にとまりました。
「これはスゴイ!」と思い,近づいていきました。そこは林の間にある放棄田。今は背の低い草が生えて,その中にポツンと数箇所,マムシグサが茎を伸ばしていました。
ここに。
そこに。
さらに周りを見ると,大小のマムシグサが所狭しと生えていました。確かにスゴイ光景です。
林の木はスギ。要するにスギの人工林があって,昔田だったと推測できる平地との境界辺り一帯です。マムシグサなど,人は利用しないでしょうから,無数に生えてきているのです。
マムシグサはどうもスギ林を好むようです。というより,針葉樹の林は陽が入らないとか,土壌が貧弱なために下草が生えないのですが,この草はそうした過酷な環境でもたくましく生きていくようです。大したものです。
じつは,このマムシグサ,わたしにとってはとくべつな意味のある草です。それで,冒頭で“久しぶり” ということばを使ったのでした。マムシグサは格好の野草紙の素材です。この草は他に類を見ないほど,魅力的な紙材料になってくれます。
写真を撮っていると,近くの年配者が脇を通りかかられました。わたしは,マムシグサがこの辺りに多いのか尋ねました。すると,「そんな名前なんですか。知らなかった」「マムシがやって来るんですか」「わたし,その草を引いて家に植えたんです。今は腐ってありませんが」とおっしゃいました。
この山あいはその昔棚田であり,今は放棄田で荒れ放題になっているのだとか。林道を登って,奥にある棚田に案内していただき,はっきりわかりました。古い時代が偲ばれます。びっくりしたのですが,道中の林間にはマムシグサが無数に生えていました。