生来の昆虫好きという性質が今頃開花したみたいに,どうものめり込んでいるって感じがしないわけではありません。好きなことを徹底してこだわって試したいというのが,本来のわたしの性質なので,これはどうしようもないことだと割り切っています。いわゆる“根掘り葉掘り”主義ってやつです。
身近な昆虫でないととことん知り尽くすまでには至りません。結局,充足感を覚えるにはわたしの生活範囲で行動して対象と出合うほかありません。できたら最高! 付き合いながら生態を追います。追いながら,写真で記録していくわけです。それで,「退職後,なにをなさっているのですか」と尋ねられると,わたしはいつも「昆虫生態写真を撮っている」とお答えすることにしています。
このブログでも,「カテゴリー」は極めて限られているのがおわかりかと思います。手が届くのはその程度なのです。その代わり,「徹底して付き合うぞ!」という気持ちでいますから,限られた昆虫についてはかなり詳しい部分まで見えてきているといってもいいかと思います。
その一つがツマグロヒョウモンです。越冬態についてはこれまで意識していなかったのですが,今冬はうんと気にかけています。ツマグロヒョウモンの越冬態は基本的には幼虫です。“基本的には”と敢えて使った理由は,もしかすると蛹もあるかもしれないということです。今,それも追っています。
食草であるスミレが枯れる冬,いったいどんなふうに生きているのか,とてもふしぎに思っていました。このふしぎを意識しながら,空き地,更地,道端,庭で観察していると,合点できることがわんさかとわかってきたのです。
尺度になる記述は『原色日本蝶類生態図鑑(Ⅱ)』にある以下の記述です。
冬の幼虫は,暖地であればスミレの株際の礫や石垣の間などに潜み,暖い時に摂食する。しかし,寒冷なところではときに移動はするがほとんど摂食せずに過ごすものが多い。(以上引用)
さて,わたしが住んでいるところではどうかという点です。はっきりいえるのは次のことです。
● 越冬場所は人工物・自然物を選ばない。
コンクリート上でも,枯れかけた葉の裏でもOKです。もちろん,枯れたなにかの草であることも。下写真は枯れた草でじっとしている個体です。わたしが草を動かしたので動き始めました。
別の個体は,からだを丸めてじっとしていました。
考えてみると,草が生えた地面の温度は変化がすくないといえます。低いなりに,安定した地温が約束されているので,食べ物がなくても生き抜けるのでしょう。
● 食草がなくなったからといって,直ちに放浪の旅に出る個体は限られている。
大抵の幼虫は,食草がなくなっても近くでじっとしています。動かなければエネルギーを使うこともありません。離れてしまうと,それだけ危険にさらされるし,体力を浪費することになるわけですから,そのことも本能が察知しているのかもしれません。しかし,なかにはいつの間にかいなくなったなあという個体例もあります。どうなったか心配です。
下写真は,勢いを失ったスミレの近くでひっそり越冬中の幼虫です。コンクリートにできた穴に身を潜めています。しかし,ずっとここにいるわけではありません。気温が5℃ぐらいになっても,鈍いながら動きが観察できます。
● 暖かい日,食草が頼りないながらまだ残っていれば,それを食べることがある。
冬でも,完全な眠りについているわけではありません。上述したように,わずかに暖かさを感じる日だと動きます。枯れずにわずかに残っている草を食べる光景も目撃しました。
おしまいに一つ。わたしの家の比較的近くに,気象庁アメダスの観測地点があります。その地点記録を調べると,観測史上最も低い気温は-8.6℃だったのだそうです。つまり,極低温が数カ月も続くわけではないので,-10℃ぐらいまでなら十分乗り切れる耐寒性・耐凍性をツマグロヒョウモンは備えているとみられます。