らんかみち

童話から老話まで

フィギュアの未来ちゃんのフィギュア

2010年01月28日 | 陶芸
「せ、せんせぇ、これぇはいったい?」
 本日の料芸クラブ、最後に残ったのはクラブのアンカーマンであらせられる要釉斎先生とぼくでしたが、先生の御手には何やらフィギュアのようなものが。
「君ぃ、知らんのかね、長洲未来ちゃんじゃ」
「みらいちゃん、ですか」
「うむ、日本人でありながら、米国のフィギュアスケート五輪代表に選ばれた女の子じゃ、快挙だとは思わんのかね」
「あ、あの娘のことですか、すごいことだとは思いますが、この作品は服を着ていない……」
「人間本来無一物。人は裸が最も美しいと、これは禅の教えじゃ」
 聞き覚えのある言葉ですが、ぇえ~そういう意味だったかなぁ。
「しかし先生、彼女はまだ16歳ですから、一糸も纏っていないってぇのは、いかがなものでしょう。荒川静香さんあたりではいかんのですか」
「荒川? もはや過去の人物じゃ。そこへいくと、未来ちゃんはカワユイのを」
 有り体に言うてもたら、ピチピチギャルが御好きってことですかい!
 先生を弁護するんじゃないですが、このフィギュアは先生が、しもべに乞われて作ったもの。であっても、念頭にあったのは新聞に掲載された長洲未来ちゃんの写真でしょう。先生が齢80半ばにして尚お元気な秘密を覗き見た思いです。
 
 腰に良くないのでロクロはやりたくなかったんですが、メンバーのお一人が電動ロクロの下に平台車のようなものを置いてくれました。これなら腰にも良かろうってわけで、せっかくだから使ってみることにしました。
「この前作っとったワイングラスみたいなん、あれ作ってくれん?」
 ロクロの前に座るなり、メンバーのおばちゃんの一人がぼくに耳打ちします。変な話です、だっておばちゃんは手びねり専門ですが、ぼくよりずっと上手なんですよ。
「こんなんで良いんですかねぇ、どういうのをイメージなさっているか分からないので」と、腰を傷める原因となったゴブレットを挽いて差し上げました。

 家に帰ると、あのおばちゃんが「お礼」と称して焼酎を持って来なさる。しかも粘土までくださって。
「大きな声では言えんけど、みんなHALさんのあの形のゴブレットが欲しいんよ。でも電動ロクロの先輩がいるから、あの人を差し置いて頼めんでしょう」
 あんな変な形のゴブレットのどこが良いのか聞いたら、ビールの泡が消えにくい、陶器なのでヌルくなりにくい、高い台が付いているので、結露してテーブルを濡らしにくい、ということらしいのです。
 そこまで考えて作ったわけじゃ決してないので、自分では実用性に疑問を持っていたんですが、思ったより使えるんだそうです。
 
「君ぃ、ワシのコーヒーカップはどうかね」
 家に帰る前に要釉斎先生のおしゃった言葉を急に思い出しました。例によってスケベなフィギュアの持ち手が付けられたカップを見せてくれたので、
「ああ、素晴らしいですね」と答えたんですが、「欲しけりゃやるぞ」って言いたかったのではなかろうか。
 でも要らんよなぁ、先生の作品はどれもこれも実用性を欠いているし、ああそうだ、鉛筆立てとかに使えばいいのか。
 ここまで考えてようやく気がつきました。あのおばちゃん、酒も飲まないのにゴブレットなんか要らんはず、あのゴブレットいったい何に化けるんやろ!