らんかみち

童話から老話まで

中学生たちと窯出しの儀

2010年01月29日 | 陶芸
「それではこれより、窯出しの儀を執り行います」と要釉斎先生が高らかに宣言し、先生のこよなく愛する旧窯の扉が開けられるや中学生たちからどよめきが起きました。要釉斎先生と、そのしもべや学校の先生の手で一つずつ慎重に取り出されるたびに作者の子が歓声をあげます。
「きゃ~、買ってきたみたいに綺麗」って、学校の先生や校長先生まで興奮してますが、そんなに喜ぶほどのもんかなぁ。
 
 窯出しの儀っていやぁ、思い出した! 自分の作品が初めて窯から出されるのに立ち合ったのは一年と一月前。「一番楽しみにしているのはこの人だから、本人の手で出させてあげて」と先輩に気をつかってもらい、初めて自分でこしらえた作品を窯から出した喜び。あれをどうして忘れてしまったんでしょう。
 
 あのころは湯飲み一つ作るのに半日、高台を削るのに翌週にまた半日と、非常に時間がかかったばかりか、削り終えてもまだサンドペーパーで修正してました。そんな命を削るようなことやってたから、焼きあがった一つ一つがいとおしく、約束していた友だちにあげるときの手離れの悪さといったらありませんでした。それが一年もロクロを回してみたら、今じゃ数分で湯飲みができ、修正もほとんど必要ないので、作品に思い入れちゅうもんが無くなってしまったんですね。
 
 中学生たちの作品は要釉斎先生の手で大きく修正されてます。もし彼らの作品をそのまま焼いたなら、今日のような喜びは無かったかしれません。遠巻きに撮影していたのでぼくの修正した作品を見ることはできませんでしたが、先生とは全く異なる高台にしてあるから、友だち同士で見せっこしたら楽しいでしょうね。
 最後に子どもたちの代表が御礼の言葉を述べ、要釉斎先生も合掌で応えて満足そう。なるほど、この窯出しの喜びを子どもらと共有できるからこそ心血注いで削っておられたんですね。来年はぼくも一期一会の気持ちで削ってみますか。