らんかみち

童話から老話まで

流れ星についえた友

2010年01月22日 | 暮らしの落とし穴
 オリオン座の西を北から南に向って流星が現れ、わずか1秒ほど光の澪を引いたあと、まわりの星に比べてひときわ明るく輝いて消えた。流星の最後を見とどけ、西の空に目をやると上限の月が冷たく傾いている。
 
 いつだったか、「上弦の月って、弦が上にくることから呼ばれるんでしょ」と言うや友人は、「いやそれは違うと思う。弦が下にあっても上弦の月って呼ぶはずや」と応えた。
 場末で飲みながら、ああでもないこうでもないとやっていたら、「それやったら賭けるか」と彼は言いだし、喧嘩になりそうだったので話を変えた。いや、負ける喧嘩と援助交際は絶対にしない友人だったので、この賭けで深手を負うのはぼくの方かもしれないと、天から直感が降りてきて、ぼくからゲームを降りたのだ。
 
 あれは小学6年の今時分だったか、友だちの家で遊んでいて帰るタイミングを逃し、二人して夜空を見上げていたとき彼が声を上げた。
「あ、ジェット機が飛んどる」
 今の時代、夜空を見上げてジェット機の飛んでなかったらラッキーと思うが、当時はジェット機を見つけたら願い事をしたもんだ。ところがそのジェット機は、5秒ほど飛んでいたかと思うとキラリーンと閃光を放って消えてしまった。
「流れ星か、誰か死んだんじゃね」
 流れ星というのは、人が死んで天空に昇ったシルシだ、と半ば本気で信じていたぼくは言い、そっと手を合わせた。ところが次の日、学校でこの夜のことで騒ぎになる。
 
「おいHAL、おまえ昨日の晩UFO見たってホントか、どんなんじゃった、なあ、どんなんUFOって」
 登校するなり質問攻めにあった。
「え、UFOって?」
「ホラ吹きデコポンが、おまえと一緒にUFO見たって言うとるんよ」
 昨夜見たのは最初ジェット機だと思ったけど、やがて流れ星に落ち着いたはずなのにUFOとは……。
 友だちがホラ吹き呼ばわりされる片棒を担ぐのもできないし、流れ星をUFOとも言えない。でもあれが何だったのかだれにも分からないのだ。
「あ、あぁ、あれは間違いなくUFOじゃっと思うよ」
 嘘をついてしまった。
 
 弦が上にあろうが下にあろうが、昼間に出て夕方に夜空のてっぺんに位置し、深夜に沈む半月のことを上弦の月と呼ぶ。そう分かったのは、場末の飲み屋で友人と論争した次の日だった。それから何度となく彼に会いながら、ぼくが間違っていたことを白状せずじまいだった。
 
 流れ星を見るたびに、どうしてだか腹の底から鉛のようなものが浮き上がっきて喉を詰まらせる。願い事なんて、できたためしがない。
 飲み屋で論争した友人は一昨年の暮れに死んだ。オリオン座の横をかすめたのが彼の魂だとは思わないが、彼を想って手を合わせた。昨夜19時ごろの妄執である。
 

 下弦の月は深夜に出て明け方に正中し、昼間に沈む。