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■荒木珠奈展 (2024年7月19~28日、札幌)

2024年07月28日 10時50分02秒 | 展覧会の紹介-複数ジャンル
 昨年、東京都美術館でインスタレーションやワークショップなどによる大規模な個展を開いた、ニューヨーク在住の荒木珠奈。札幌のギャラリーでの個展では、版画23点と、9組のセラミック(陶磁)作品を出品している。

 手掛ける作品の種類は幅広いが、一番長く続けているのは版画。メキシコ留学時代の1994年ごろに始めた。今回最も古いのは「うちシリーズ」という副題が付された98年前後の連作。これらは、道立近代美術館が2005~06年に開いたグループ展「スイート・メモリーズ」で、インスタレーションの一部に使われていたものだ。館内には、団地に着想を得た小さい箱が並び、どこか懐かしく心あたたまる作品だった。

 しかし例えば、人の手が1羽の小鳥を握る絵に「不自由」という題を付けているのを見ると、郷愁だけが作者の狙いでないことは、一目瞭然だろう。「懐かしい中にも不安などの感覚がまじっていることが伝われば」と作者は話す。

 会場中央に置かれたセラミックの立体=写真手前=は、乾いてひび割れた大地に舞い降りたチョウのようだ。メキシコで、遠く米国まで飛ぶチョウを見たことが制作のきっかけになったそうだ。

 同時にこの三角形はテントの意味もあるという。かつて暮らしたメキシコと現在住んでいる米国の間には、不法移民の問題が横たわる。作品は、国境の青い川を挟んで移民たちのテントが並ぶ光景にも見えるのだ。チョウは国境を越えて遠くまで飛んでいくのに、少なからぬ人間は避難民として移動せざるを得ないという現実を、あらためて考えさせられる。

 28日まで。会期中無休。ト・オン・カフェ(中央区南9西3、マジソンハイツ)。


※北海道新聞7月23日付に掲載しました。


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