![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/49/09/cff0ee523f4ff328b8a2a97540084ec1.jpg)
HOKKAIDO PHOTO FESTA (HPF)は2018年に、自動販売機を撮ったシリーズなどで知られる札幌の写真家大橋英児さんらが始めたものです。最初の年は、森山大道ヴィンテージ写真展など展示企画が多く、また、写真愛好者が自作ファイルを専門家に批評してもらう「ポートフォリオレビュー」もこの年から実施されています。
筆者が札幌に3年ぶりに戻ってきたら、東京の写真批評家やキュレーターによる講演会やオンラインインタビューも行われるようになっていて、充実の度を増しているようです。ただし、なにぶん筆者が多忙のためそれらに顔を出せていないのは残念です。
なお、2018年からは「NPO法人 北海道を発信する写真家ネットワーク “THE NORTH FINDER”」も「SapporoPhoto」という催しを始めており、筆者のような外野の人間は「せっかくだから一緒にやったらいいのに」と思うのですが、関係者によると、気がついたらそれぞれ始めていたとのこと。まあ、多少方向性が異なるのかもしれませんが、大橋さんによると、HPF のポートフォリオレビューなどには本州からわざわざ参加する人もいるそうです。
前置きが長くなりましたが、一般の人でも気軽に鑑賞できるのがこの写真展。
会場の手前から順に
石井陽子「鹿の惑星」
岩波友紀「紡ぎ音」
佐藤静香「むこうがわ」
の三つの個展が開かれていました。
(このほか、HPF selection 2 「ephemereality」と題した近藤マリアルイーザ明子さんの写真展が、salon cojica (北区北23西8)で10月15日~11月19日(土)午前11時~午後7時(日月曜休み)と、KINBI nicojica (道立近代美術館内)で10月4日~11月6日に、2会場で開かれています)
全作品がカラー。
プリントが大きいとはいえ、石井さんが12点、佐藤さんが9点なので、それほど広い会場ではありません。
石井さんは奈良と北海道で撮ったシカの写真。
市街地をわが物顔で通りすぎるシカの大群の写真もあれば、雪の上をゆくシカの写真もあります。
会期中の10月26日、シカと衝突したのがきっかけで3人が死傷する交通事故が道内で起きました。
人間の目線でいえば、まったく迷惑なシカのふるまいなのですが、この土地に住んでいるのは人間だけではないということを、このタイトルから気づかされます。
決してジャーナリスティックな撮り方ではなく、むしろユーモラスな雰囲気の強い作品ですが、あらためて、人間と自然の共存について考えるきっかけになる作品だと思います。
HPFは今年から、屋久島国際写真祭と連携しました。
佐藤さんは同写真祭からの推薦です。
フランス滞在の後、地域おこし協力隊員として熊本県の天草に移住しており、そこで取り組んだ作品で、お面を着けて写っている男女の全身像。
こちらもどこかユーモアを感じる写真です(とくに、右端の男性のジャケットが新品で、妙になじんでいないことが可笑しみを漂わせています)が、地域社会のなかの人間の属性や役割、立ち位置といった要素について、見る人に考察をうながす作品だといえそうです。
個人的には岩波友紀さんの写真が一番ずしりときました。
筆者はどうも東日本大震災を題材にした作品に弱いのです。
岩波さんは1977年長野県生まれ。2001年からアジアなどを放浪した後、全国紙のカメラマンとして活動。15年にフリーになり福島県に移住しました。
「紡ぎ音」は、震災の後も各地で続いているお祭りが題材で、会場には25枚が展示されていました。
岩波さんはこの写真で入江泰吉記念賞を受賞しています。
冒頭画像の右手。
上の写真は、厳密には岩波さんの撮影ではなく、震災後に拾われた写真です。お祭りの衣装をつけた子どもたちが大勢写っています。
下の写真も祭礼衣装の少女たちですが、曇り空の下に並んでいるのは6人に過ぎません。
上は岩手県大槌町で拾われた作者・撮影時期不明の一枚。
下は福島県浪江町の「請戸の田植踊」です。
ですから、震災で多くの人命が失われたり、他の土地に去っていったりして、祭に出てくる人が減ったということを直接的に示した2枚ではないのです。
にもかかわらず、下の写真は、「3・11」後に地域社会の置かれた厳しい現実を表しているといえそうです。実際にこれは2017年3月に浪江町の一部で避難指示が解除されたあと、初めて再開された祭だということです。
左から2枚目。
浜辺を3人が走っていますが、遠くに東京電力福島第1原子力発電所が写っています。
二つめの画像にも、壊れたままの鳥居、津波で消滅して空き地のままになっている海沿いの土地などが写っています。
おそろしく高い防潮堤の前を、人々の行列が歩いている写真があるのも分かると思います。
これらの写真を見るたびに、筆者は、2012年に訪れた気仙沼や閖上(仙台市)、19年の石巻を思い出し、胸が締め付けられるような気持ちになるのです。
被災地の人々は、祭りをよりどころにして、地域のつながりを維持しています。
ただ、それは
「こんなにがんばっていますよ」
という美談で片付けられるものではなく、後継者不足や、かつての村落の消失(家々は高台に移転した)といった問題を抱えており、岩波さんはそれらにもしっかりとレンズを向けています。
ちょっと引いた位置から撮った写真が多いことに、むしろ好感を抱きます。
写真集の中に、震災で亡くなった高校生の娘の遺影を墓前に置き、祭の横笛を構えるしぐさをしている父親を、背後から撮った一枚があり、見て、さすがに泣いてしまいました。
2022年10月24日(月)~30日(日)午前10時~午後5時
モエレ沼公園・ガラスのピラミッド(札幌市東区モエレ沼公園)
□https://www.hokkaidophotofesta.com/
□Twitter : @yuki_iwanami
□Yuki Iwanami / Photography https://www.yukiiwanami.com/
過去の関連記事へのリンク
HOKKAIDO PHOTO FESTA 浜口タカシ・百々俊二・中藤毅彦写真展 (2018)
筆者が札幌に3年ぶりに戻ってきたら、東京の写真批評家やキュレーターによる講演会やオンラインインタビューも行われるようになっていて、充実の度を増しているようです。ただし、なにぶん筆者が多忙のためそれらに顔を出せていないのは残念です。
なお、2018年からは「NPO法人 北海道を発信する写真家ネットワーク “THE NORTH FINDER”」も「SapporoPhoto」という催しを始めており、筆者のような外野の人間は「せっかくだから一緒にやったらいいのに」と思うのですが、関係者によると、気がついたらそれぞれ始めていたとのこと。まあ、多少方向性が異なるのかもしれませんが、大橋さんによると、HPF のポートフォリオレビューなどには本州からわざわざ参加する人もいるそうです。
前置きが長くなりましたが、一般の人でも気軽に鑑賞できるのがこの写真展。
会場の手前から順に
石井陽子「鹿の惑星」
岩波友紀「紡ぎ音」
佐藤静香「むこうがわ」
の三つの個展が開かれていました。
(このほか、HPF selection 2 「ephemereality」と題した近藤マリアルイーザ明子さんの写真展が、salon cojica (北区北23西8)で10月15日~11月19日(土)午前11時~午後7時(日月曜休み)と、KINBI nicojica (道立近代美術館内)で10月4日~11月6日に、2会場で開かれています)
全作品がカラー。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/66/43/5855611b0aebb218fd75d3401d618d22.jpg)
プリントが大きいとはいえ、石井さんが12点、佐藤さんが9点なので、それほど広い会場ではありません。
石井さんは奈良と北海道で撮ったシカの写真。
市街地をわが物顔で通りすぎるシカの大群の写真もあれば、雪の上をゆくシカの写真もあります。
会期中の10月26日、シカと衝突したのがきっかけで3人が死傷する交通事故が道内で起きました。
人間の目線でいえば、まったく迷惑なシカのふるまいなのですが、この土地に住んでいるのは人間だけではないということを、このタイトルから気づかされます。
決してジャーナリスティックな撮り方ではなく、むしろユーモラスな雰囲気の強い作品ですが、あらためて、人間と自然の共存について考えるきっかけになる作品だと思います。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/6a/cf/bd14ad7557de74f34dbd6504f7a22f88.jpg)
HPFは今年から、屋久島国際写真祭と連携しました。
佐藤さんは同写真祭からの推薦です。
フランス滞在の後、地域おこし協力隊員として熊本県の天草に移住しており、そこで取り組んだ作品で、お面を着けて写っている男女の全身像。
こちらもどこかユーモアを感じる写真です(とくに、右端の男性のジャケットが新品で、妙になじんでいないことが可笑しみを漂わせています)が、地域社会のなかの人間の属性や役割、立ち位置といった要素について、見る人に考察をうながす作品だといえそうです。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/68/f9/c8a1a20fdfb60ad914a11d1fdd65cf52.jpg)
個人的には岩波友紀さんの写真が一番ずしりときました。
筆者はどうも東日本大震災を題材にした作品に弱いのです。
岩波さんは1977年長野県生まれ。2001年からアジアなどを放浪した後、全国紙のカメラマンとして活動。15年にフリーになり福島県に移住しました。
「紡ぎ音」は、震災の後も各地で続いているお祭りが題材で、会場には25枚が展示されていました。
岩波さんはこの写真で入江泰吉記念賞を受賞しています。
冒頭画像の右手。
上の写真は、厳密には岩波さんの撮影ではなく、震災後に拾われた写真です。お祭りの衣装をつけた子どもたちが大勢写っています。
下の写真も祭礼衣装の少女たちですが、曇り空の下に並んでいるのは6人に過ぎません。
上は岩手県大槌町で拾われた作者・撮影時期不明の一枚。
下は福島県浪江町の「請戸の田植踊」です。
ですから、震災で多くの人命が失われたり、他の土地に去っていったりして、祭に出てくる人が減ったということを直接的に示した2枚ではないのです。
にもかかわらず、下の写真は、「3・11」後に地域社会の置かれた厳しい現実を表しているといえそうです。実際にこれは2017年3月に浪江町の一部で避難指示が解除されたあと、初めて再開された祭だということです。
左から2枚目。
浜辺を3人が走っていますが、遠くに東京電力福島第1原子力発電所が写っています。
二つめの画像にも、壊れたままの鳥居、津波で消滅して空き地のままになっている海沿いの土地などが写っています。
おそろしく高い防潮堤の前を、人々の行列が歩いている写真があるのも分かると思います。
これらの写真を見るたびに、筆者は、2012年に訪れた気仙沼や閖上(仙台市)、19年の石巻を思い出し、胸が締め付けられるような気持ちになるのです。
被災地の人々は、祭りをよりどころにして、地域のつながりを維持しています。
ただ、それは
「こんなにがんばっていますよ」
という美談で片付けられるものではなく、後継者不足や、かつての村落の消失(家々は高台に移転した)といった問題を抱えており、岩波さんはそれらにもしっかりとレンズを向けています。
ちょっと引いた位置から撮った写真が多いことに、むしろ好感を抱きます。
写真集の中に、震災で亡くなった高校生の娘の遺影を墓前に置き、祭の横笛を構えるしぐさをしている父親を、背後から撮った一枚があり、見て、さすがに泣いてしまいました。
2022年10月24日(月)~30日(日)午前10時~午後5時
モエレ沼公園・ガラスのピラミッド(札幌市東区モエレ沼公園)
□https://www.hokkaidophotofesta.com/
□Twitter : @yuki_iwanami
□Yuki Iwanami / Photography https://www.yukiiwanami.com/
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HOKKAIDO PHOTO FESTA 浜口タカシ・百々俊二・中藤毅彦写真展 (2018)