北海道美術ネット別館

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■阿地信美智 主記憶の断片化、弐 (8月19日まで)

2007年08月15日 22時35分34秒 | 展覧会の紹介-現代美術
 まずおことわりし、おわびしなくてはならないのは、北海道美術ネットの本館と別館のあちこちで、阿地さんのお名前を「阿智」さんと誤っていたことです。ただちに訂正します。パソコンの誤変換ですが、阿地さん、申し訳ございませんでした。


 阿地さんの立体は独特です。
 ほとんどが木製ですが、緑などを着彩されて、鋳物や金属のように見えます。
 どれも、古びた機械のようにも見えますが、具体的ななにかを模しているわけではありません。
 ただ、とてもなつかしい感じがします。
 作品群から受けるこの懐旧的な感じは、たとえば神山明の木彫や、クラフト=エヴィング商會の立体などに共通するテイストであり、内藤礼のインスタレーションなんかも聯想してしまいますが、フォルムなどはやはり阿地さん独特のものだといえるでしょう。

 筆者がいちばん感服したのは、入り口附近の展示です。
 まず、大作「Fragmentation'04」が目に入ります。なにかを滑車のような円盤でひきつぶす器械のようにも見えますが、とくに用途はないのでしょう。
 その背後の壁には「MEMORY(原本)」と、「MEMORY(COPY 1)」から「MEMORY(COPY 7)」までの計8点が規則的にならんでいます。どれもほとんど同一の作品なのですが、手づくりなので細部は少しずつちがっています。
 まったく同一のものが複写されるデジタル社会にたいし、記憶というものはすこしずつ変化していくものだよ、だからこそ人間的なんだよ-と、阿地さんが見る人に話し掛けているような気がしてなりません。
 表面の着彩を透かして、新聞紙が貼られているのが見えます。

 そのとなりには、望遠鏡とも顕微鏡ともつかぬ立体「既視感的風景 I(怪物)」が、八角形の台にすえつけられており、透明なアクリル板の向こうにはプロペラ機をおもわせる「既視感的風景 II(少年の夢)」が、背の高い棒の上に載っています。
 少年の夢、とは、よく言ったもんだなあと思います。
 阿地さんの作品全体が、どこか少年の夢のようです。

 踊り場の窓に取り付けられていたわずか3段の階段とはしごからなる「使い物にならない領域(部分②)」も、べつの意味で阿地さんらしいといえるかもしれません。
 この作品は、なんの役にもたちません。形状は、赤瀬川原平が提唱した「トマソン」の純粋階段に似ていますが、ああいうユーモア感覚よりもかすかなかなしみのようなものをただよわせているようです。
 でも、役にたたないといえば、あらゆる芸術は、直接的にはなんの役にもたたないのです。だからといって芸術に意味がない、なんていう人はいないでしょう。無意味の意味を、堂々と、しかしさりげなく物語っているのがこの作品ではないかと思います。

 小品は、さいとうギャラリーの企画展で見たものが多いです。
 なんだかデジタルっぽい副題のついた個展ですが、内実はとてもアナログで、なつかしく、なぜか人間の核みたいな部分にそっとふれているような感じがしました。

 会場にあった阿地さんの文章を引用します。

特に社会的なメッセージは何もない。
これまでの自分の体験や記憶を断片的になぞり、形象化させ、囁きたいと考える。

案外こうした作品が本気で見るもの(他者)を刺激し、その人自身に新しい形で具体化するのではないかと思う。そんな対峙があればと思う。


 作品は次のとおり。
「イコライザー」
「液体測定器(プロトタイプ)」
「液体測定器 II(汎用仕様)」
「風の帝国」
「無題(2005)」
「(有)カガミモチ製造」
「使い物にならない領域(部分①)」
「使い物にならない領域(部分②)」
「School Heart Mother」
「Fragmentation'04-2(主記憶の断片化)」
「Fragmentation'04-3(タイプA)」
「Fragmentation'04-3(タイプB)」
「非破壊型探査装置」
「ワンセグ羽子板」
「既視感的風景 I(怪物)」
「既視感的風景(少年の夢)」
「Fragmentation'04」
「MEMORY(原本)」
「MEMORY(COPY 1)」
「MEMORY(COPY 2)」
「MEMORY(COPY 3)」
「MEMORY(COPY 4)」
「MEMORY(COPY 5)」
「MEMORY(COPY 6)」
「MEMORY(COPY 7)」

 阿地さんは1963年、釧路管内阿寒町生まれ。
 道教育大を卒業。
 長く新道展で活躍し、会場でも異彩を放ってきましたが、ことし4月に退会したそうです。
 また、数年に一度、時計台ギャラリーで個展をひらいている(なぜかG室がお気に入り)ほか、北海道立体表現展や、さいとうギャラリーの夏と正月の企画小品展にも出品しています。 

07年7月30日(月)-8月19日(日)9:00-18:00(土・日曜-16:00)、会期中無休
STV北2条ビルエントランスアート(中央区北2西2 地図A)


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