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■続き・現れよ。森羅の生命― 木彫家 藤戸竹喜の世界 (2017年10月14日~12月17日、札幌)

2017年12月22日 20時24分00秒 | 展覧会の紹介-彫刻、立体
承前

 前項が長くなりすぎたので、続きを別項にした。

 藤戸竹喜さんは1934年(昭和9年)、美幌(現オホーツク管内美幌町)生まれ。
 1歳になる前に母親と死別しており、その後、旭川の近文コタンに移る。
 近文の国民学校(小学校)は2年で中退。父親に熊彫りを習うが、図録によると、息子の作って持ってきた木彫りを黙って火にくべるような厳しい指導だったようだ。
 その後、阿寒湖の土産物店で腕を磨き、30歳のときに独立した。


 それから現在に至るまで、図録の年譜を見て、目を引くのは、30代のころ、写実力が認められて旧ソ連政府からレーニン像の制作を頼まれたこと、2015年に北海道文化賞を受けたことなどだろうか。
 レーニン像は、これはまあ当然だと思うが、今回の個展には出ていない。いまでもモスクワあたりのしかるべき施設に行けば、見ることができるのだろうか。

 近年では2014年、JR札幌駅構内に設置された「エカシ像 クリムセ」が有名だろう。
 周囲に配されたものは別人の作だが、これまで展覧会の過半数が道東で開かれてきた藤戸にとっては、札幌圏の人々に存在を認知させる大きな役割を果たしているのではないかと思う。
(※この段落、一部表現を変えました) 

 前項でも書いたが、藤戸氏のあざやかな作品を見ていると、木彫がアイヌ民族の伝統工芸のように思われてくるが、決してそうではない。
 いくらマキリ(小刀)の扱いに習熟しているとはいえ、もともと絵や彫刻を作ってきたわけではない。それを思えば、アイヌ民族が熊彫りをこれほどまでに自家薬籠中のものとしたことについては、驚きを禁じ得ないのだ。
 ここに掲げた画像は、ロブスターとカニ。会場では触れることはできないが、脚も可動式で自在に動くという。
 冒頭から2枚目はオオカミ。

 いったいどんな秘策を用いているのか知りたくなり、第2会場で流れていたビデオ映像をじっと見ていたが、いたってふつうに、木づちでのみをたたいて材木を削っていた。あんな作業から、どうしてあのような精緻かつリアルな質感描写が可能になるのか、皆目見当がつかなかった。
 それよりも、作者がオープンカートに乗って阿寒湖周辺の道路を走っている映像にびっくり。本人は「ストレス解消です」と笑っていたが、どこから見てもまさしく「ちょい悪オヤジ」だ。


 作者がことし83歳ということを考えれば信じがたいのだが、この展覧会のために、19点からなる連作「狼と少年の物語」を新たに作ったというからすごい。
 しかも、1900年前後に滅亡したエゾオオカミと、川で流され、オオカミに救われて育てられた男の子をめぐって展開する壮大なストーリーつきで、映画化できそうなほどだ。
 
 単に波瀾万丈なのではなく、作者の、すでに滅んでしまったエゾオオカミへ寄せる熱い思いが伝わってくるようだ。


 それにしても、と思うのは、作者はリアルな描写を旨とし、安直なキャラクター化やデフォルメ、擬人化などは一切していない。にもかかわらず、冒頭画像の親子熊などがいかにも人間らしく見えてくるのはどうしてだろう。
 赤ちゃん熊は、人間の子のように駄々をこねているわけではないだろうし、母熊も言葉をかけているわけではない。
 しかし私たちは、そこに、人間に共通する母子の愛情の表れを見てしまう。

 なぜだろう。



2017年10月14日(土)~12月17日(日) =前期~11月12日(日)、後期は11月14日(火)~12月17日 午前9時45分~午後5時(入館は午後4時30分まで)。11月3日まで無休。それ以降は月曜休み
札幌芸術の森美術館(札幌市南区芸術の森2)
一般千円 高校・大学生600円 小中学生300円

2018年1月11日(木)~3月13日(火)
国立民族学博物館(大阪府吹田市千里万博公園)



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