言葉に焦点を当てた展覧会。
フライヤーに「新約聖書、創世記の中」などと書いてあってギョッとしたが、興味深い展示だった。
(言うまでもなく、創世記は旧約聖書。「はじめに言葉ありき」は、新約聖書「ヨハネによる福音書」の書き出し)
筆者が見どころだと思った点は二つ。
ひとつは、書家の樋口雅山房さんの作品が大量にあったこと。
ざっと数えたら59点も展示されていた。
ギャラリーや美術館ではなく、一般の人が大勢出入りする空間に個人の書作品がこれほどたくさん並ぶのは、札幌では、1998年に京王プラザホテル札幌で開かれた島田無響個展以来ではないかと思う。
樋口雅山房さんの作品は、絵が交じっていることもしばしばあって、いわゆる「書のツウ」でなくても親しみやすいと思う。
造形を純粋に鑑賞するのであれば前衛書のほうがふさわしいのかもしれないが、それだと「言葉」というテーマと離れてしまう。
冒頭の画像は「土偶十六羅漢図」。
室蘭輪西遺跡(縄文晩期)や余市町大谷地貝塚(同)など、道内で見つかった土偶を羅漢に見立てて、横に並べた大作。
ほかにも、小樽市手宮の洞窟やアイヌ民族の祭祀を自由闊達な筆づかいで描いている。
こちらの画像は、ふだんから取り組んでいる墨象の作品。
「月」という作を四つ並べていて、おなじ漢字でも書法はさまざまだということがわかる。
このほか「色板書」と題し、曲線で囲まれた不定形の紙に書いた「竹」「千客万来」などのシリーズや、一休禅師の臨書、いろはうたを書いた作品など、バラエティーに富んだ書が並んでいた。
もうひとつ、必見なのは、高橋喜代史さんの「ポスター」。
3月にJRタワー・プラニスホールで開かれたグループ展に発表した映像作品の続編ともいえるもので、「助けて!」と日本語、英語、アラビア語で書かれた巨大なポスターと、それを札幌の中心部(札幌西武跡の中央区北4西4のフェンス)に貼り付ける様子を固定カメラで撮影した映像だ。
映像は、風が少し強い春に撮られたとおぼしく、作者がクラフトテープか何かでフェンスにポスターを貼り付けようとしても、とたんに風にあおられて、はがれていく。
作業がいささかシジフォス的労働の様相を見せていたとき、黄色い買い物袋を持った若い男性が通りがかりに手伝いを申し出て、ポスターの左端を押さえ続けることで、ようやく作業は完了するのだが、その間に通り過ぎる人は大勢いるのに、手伝いはおろか、立ち止まって様子を見たり、何をしているのかを問うたりする人はだれもいない。
「じゃあ、もしおまえが通りがかっていたら手伝ったのかよ」
と言われて、胸を張って「手伝っていたぞ」と言えない筆者であるが、ともあれ、この冷淡な反応こそが、欧洲を中心に世界を揺るがせている難民問題の、日本での関心の薄さを象徴しているように思われてならない。
日本にとって難民問題はけっして遠い国の話ではない。昨年、世界では6850万人が故郷を追われたと国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)が発表した。
テレビや新聞ではあまり大きな扱いにはなっていないが、東日本入国管理センター(茨城県牛久市)で自殺やハンガーストライキが相次いでいる。
見た目はシンプルだが、非常に重い問いかけをはらんだ作品だ。
このほかの出品者は、港千尋、文月悠光、TOLTA(山田亮太、河野聡子、佐次田哲、関口文子)、ワビサビ、池田緑、渡辺元気、居山浩二、朴炫貞。
港さんは、あいちトリエンナーレ2016の芸術監督など、幅広く活動している。
右の画像は、帯広の美術家、池田緑さんが、四つの大事な言葉をダイモテープで200人に打ってもらった作品。
ひとつひとつの透明なケースに入っているのは、どうやらカラーコピーのようだ。
札幌のデザインユニット「ワビサビ」の作品。
「ちりもつもれば山となる」ということわざを英語にして、独自のロゴで表した。
工事現場を思わせる設営方法がおもしろい。
ただし、いろいろな人の作品を見ていると、これってビジュアルポエトリーとどこが違うんだろうな~、という思いを抱くのだった。
※追記。ある詩のような作品に「どんな家でも、米をたく匂いがたちこめていたのだろう」という意味の言葉が透明な板に書かれてあったが、日本の歴史で、すべての家で毎日のように米飯が可能だった時代は、1960年代以降を別にすれば、一度もない。弥生時代から戦後まで、米は常に不足していた。
2018年4月27日(金)~6月27日(水)午前7時半~午後10時
札幌大通地下ギャラリー500m美術館(中央区大通西1~大通東2 地下鉄大通駅とバスセンター前駅の間の地下コンコース)
関連記事へのリンク
■第32回北海道墨人展 (2018年4月)※画像あり
■第31回 北海道墨人展■第68回 札幌墨象会展 (2017)
■第30回 北海道墨人展■第67回 札幌墨象会展 (2016)
■第29回北海道墨人展■第66回札幌墨象会展 (2015)
■樋口雅山房 吉祥文字展 元気HOKKAIDO (2011)※画像あり
■第23回北海道墨人展(2009年)
イーアスの回転寿司店に樋口雅山房さんの書画
■第9回北の墨人選抜展(2008年)
■第20回北海道墨人展
■墨人・樋口雅山房の世界(2003年)
□ハイブリッドアート http://ameblo.jp/hybridart2/
■なえぼのアートスタジオのオープンスタジオ (2017)
■アートのことば―マグリット、ライリーから宮島達男 (2015~16)
■そらち炭鉱の記憶アートプロジェクト2014
■札幌ビエンナーレ・プレ企画 表現するファノン-サブカルチャーの表象たち
キーボー氏のブログで「5つのルール」を読んだ
■Sapporo II Project(2009年)
■500m美術館(2008年)
■高橋喜代史個展-現代アートと書道のハイブリッドアーティスト(2007年)
フライヤーに「新約聖書、創世記の中」などと書いてあってギョッとしたが、興味深い展示だった。
(言うまでもなく、創世記は旧約聖書。「はじめに言葉ありき」は、新約聖書「ヨハネによる福音書」の書き出し)
筆者が見どころだと思った点は二つ。
ひとつは、書家の樋口雅山房さんの作品が大量にあったこと。
ざっと数えたら59点も展示されていた。
ギャラリーや美術館ではなく、一般の人が大勢出入りする空間に個人の書作品がこれほどたくさん並ぶのは、札幌では、1998年に京王プラザホテル札幌で開かれた島田無響個展以来ではないかと思う。
樋口雅山房さんの作品は、絵が交じっていることもしばしばあって、いわゆる「書のツウ」でなくても親しみやすいと思う。
造形を純粋に鑑賞するのであれば前衛書のほうがふさわしいのかもしれないが、それだと「言葉」というテーマと離れてしまう。
冒頭の画像は「土偶十六羅漢図」。
室蘭輪西遺跡(縄文晩期)や余市町大谷地貝塚(同)など、道内で見つかった土偶を羅漢に見立てて、横に並べた大作。
ほかにも、小樽市手宮の洞窟やアイヌ民族の祭祀を自由闊達な筆づかいで描いている。
こちらの画像は、ふだんから取り組んでいる墨象の作品。
「月」という作を四つ並べていて、おなじ漢字でも書法はさまざまだということがわかる。
このほか「色板書」と題し、曲線で囲まれた不定形の紙に書いた「竹」「千客万来」などのシリーズや、一休禅師の臨書、いろはうたを書いた作品など、バラエティーに富んだ書が並んでいた。
もうひとつ、必見なのは、高橋喜代史さんの「ポスター」。
3月にJRタワー・プラニスホールで開かれたグループ展に発表した映像作品の続編ともいえるもので、「助けて!」と日本語、英語、アラビア語で書かれた巨大なポスターと、それを札幌の中心部(札幌西武跡の中央区北4西4のフェンス)に貼り付ける様子を固定カメラで撮影した映像だ。
映像は、風が少し強い春に撮られたとおぼしく、作者がクラフトテープか何かでフェンスにポスターを貼り付けようとしても、とたんに風にあおられて、はがれていく。
作業がいささかシジフォス的労働の様相を見せていたとき、黄色い買い物袋を持った若い男性が通りがかりに手伝いを申し出て、ポスターの左端を押さえ続けることで、ようやく作業は完了するのだが、その間に通り過ぎる人は大勢いるのに、手伝いはおろか、立ち止まって様子を見たり、何をしているのかを問うたりする人はだれもいない。
「じゃあ、もしおまえが通りがかっていたら手伝ったのかよ」
と言われて、胸を張って「手伝っていたぞ」と言えない筆者であるが、ともあれ、この冷淡な反応こそが、欧洲を中心に世界を揺るがせている難民問題の、日本での関心の薄さを象徴しているように思われてならない。
日本にとって難民問題はけっして遠い国の話ではない。昨年、世界では6850万人が故郷を追われたと国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)が発表した。
テレビや新聞ではあまり大きな扱いにはなっていないが、東日本入国管理センター(茨城県牛久市)で自殺やハンガーストライキが相次いでいる。
見た目はシンプルだが、非常に重い問いかけをはらんだ作品だ。
このほかの出品者は、港千尋、文月悠光、TOLTA(山田亮太、河野聡子、佐次田哲、関口文子)、ワビサビ、池田緑、渡辺元気、居山浩二、朴炫貞。
港さんは、あいちトリエンナーレ2016の芸術監督など、幅広く活動している。
右の画像は、帯広の美術家、池田緑さんが、四つの大事な言葉をダイモテープで200人に打ってもらった作品。
ひとつひとつの透明なケースに入っているのは、どうやらカラーコピーのようだ。
札幌のデザインユニット「ワビサビ」の作品。
「ちりもつもれば山となる」ということわざを英語にして、独自のロゴで表した。
工事現場を思わせる設営方法がおもしろい。
ただし、いろいろな人の作品を見ていると、これってビジュアルポエトリーとどこが違うんだろうな~、という思いを抱くのだった。
※追記。ある詩のような作品に「どんな家でも、米をたく匂いがたちこめていたのだろう」という意味の言葉が透明な板に書かれてあったが、日本の歴史で、すべての家で毎日のように米飯が可能だった時代は、1960年代以降を別にすれば、一度もない。弥生時代から戦後まで、米は常に不足していた。
2018年4月27日(金)~6月27日(水)午前7時半~午後10時
札幌大通地下ギャラリー500m美術館(中央区大通西1~大通東2 地下鉄大通駅とバスセンター前駅の間の地下コンコース)
関連記事へのリンク
■第32回北海道墨人展 (2018年4月)※画像あり
■第31回 北海道墨人展■第68回 札幌墨象会展 (2017)
■第30回 北海道墨人展■第67回 札幌墨象会展 (2016)
■第29回北海道墨人展■第66回札幌墨象会展 (2015)
■樋口雅山房 吉祥文字展 元気HOKKAIDO (2011)※画像あり
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イーアスの回転寿司店に樋口雅山房さんの書画
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■墨人・樋口雅山房の世界(2003年)
□ハイブリッドアート http://ameblo.jp/hybridart2/
■なえぼのアートスタジオのオープンスタジオ (2017)
■アートのことば―マグリット、ライリーから宮島達男 (2015~16)
■そらち炭鉱の記憶アートプロジェクト2014
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キーボー氏のブログで「5つのルール」を読んだ
■Sapporo II Project(2009年)
■500m美術館(2008年)
■高橋喜代史個展-現代アートと書道のハイブリッドアーティスト(2007年)