mukan's blog

つれづれなるままに ひぐらしPCにむかいて

台湾総統選結果の読み方

2024-01-15 06:38:50 | 日記
 台湾の総統選は、当初予想の通り民進党の候補が当選した。マス・メディアは中台の緊張が高まると煽っているが、そうじゃないだろうとワタシは呟いている。
 票の内訳をみると、親米派・民進党は40%、親中派・国民党は33%、中道派・民衆党は26%、つまり世論は結構バランスよく均衡している。でもバランスって、何のバランスだ? 親米派、親中派と区分けしているが、それは現今の米中の力の対決構図に当て嵌めて分けているだけで、そう割り切っていいかどうか。もう少し中身を吟味する必要があるのではないか。
 親米派には、現在の事実上独立している台湾の状態を維持したいと考える人たちの票が投じられている。自由とそれを支える政治制度。民主派と言ってもいい。独立を主張しているわけではないが、事実上独立していることを承認維持してほしいという気分。
 親中派は、では、自由や民主はどうでもいいと考えているかというと、そうではなかろう。ただ中国を一体の祖国と思う心根と経済的な結びつきが強まることを望む気分が反映されていよう。中国の武力攻撃によって生じる戦争を避けたい気分が籠められているかも知れない。
 では、中道派の民衆党は何だろうか。わかりやすくいうと、かつて存在した香港の民主派のような心持ちではないかと私は読んでいる。現今中国との武力統一はもちろん避けたい。一国二制度という表現がかつての香港にもっていた緩やかな自由と安定感。それは、台湾は中国であると共に、自律した政治経済圏を保っているという気分である。
 もう少し踏み込んで腑分けすると、台湾は国民国家としての中国にも属さないし、アメリカにも靡かない。米中対立は、謂わば国際政治世界の国家権力の対立構図であって、台湾は民衆の入会地(common land)だとでもいおうか。米中双方共に放っておいてよという票を集めたのではないか。
 マス・メディアは国際政治の覇権争い次元にまとめるとわかりやすいから、米中対立構図で描き分けている。総統選結果が米中対立争いに緊張感を高めると予言するような報道もなされている。習近平もバイデンも、覇権争いの構図で世界を描くことから自由でない。だからそう報道されて囃し立てられると、ますます緊張が高まる。
 マス・メディアは自分たちの報道が政治指導者に与える影響を軽く見ない方がいい。彼ら為政者は自分の世界観を頑なに保持しているが、同時に選挙結果などをどう読むか、それが台湾の民意ばかりでなく、世界の民意をどう反映しているかに、神経をそばだてている。そのとき、米中ばかりでなく、ロシアも、イスラエルも、EUも、国民国家のパワー・ポリティクスの力関係をどう我が方に有利に運ぶかばかりに、神経が傾き、目下そのように注力している。
 それだからこそマス・メディアは、国民国家的なパワー・ポリティクスの次元ではなく、民衆の社会的な生活次元からの発想を組み込む視線をこそ、強調して提示し、為政者たちを批評、批判、糾弾、啓蒙・啓発する役割を果たしてもらいたいと思う。
 民衆の社会的な生活次元からの発想とは、国民国家的な枠組みを取っ払った暮らし(common life)のセンスである。それを象徴するのが、国民国家がくっきりとしたカタチをもつ前の入会地的な世界往来のイメージである。近代国民国家という、後から生まれてきたくせに国家領域の境界線を引いて人の往来をきつく制限することを争う愚は、ヒトの往来自在というグローバリズム(common life globalism)の本質を損なっている。しかもその愚劣な境界線の争奪を巡って武力を行使し力比べをするなんて、文字通り愚の骨頂である。そういう意思が、台湾総統選で象徴的に表現されている。そういう読み取り方をして、為政者たちを叱りつけてよと、非力な八十爺は願っているのである。
 あっ、それと、追伸。
 台湾議会選では与党が半数を割り(51議席)、最大野党もしかし半数に至らず(52議席)、民衆党とその他(10議席)が立法の議決権を握ったというのを知って、そうだ、これこそが民主制選挙のもつ醍醐味だと思った。
 実際今後どう運営されるかワカラナイが、与党の民進党総統が采配を揮うにしても、多数派工作として、国民党や民衆党、その他の議員の思惑を慮らなくてはならなくなる。そうだよ、これが少数意見の尊重という民主主義に於ける「選挙」の醍醐味。二院制で多数を占めた野党が、さらにその内部でトランプ派と共和党伝統派に分かれてもめているアメリカ議会など、嗤うべき民主主義に見える。アメリカの共和党も少し分裂して、民主党を含めた多党が議会調整をするようになれば、多少は選挙を反映した民主政治が作動するであろうに、トランプ登場後のYES/NOだけの二大政党制では、USA船は大きく右や左に傾いて、その都度世界が大迷惑を蒙るようになる。
 こういうのは、パワー・ポリティクスの国際関係構図をいっそう昂進させ、混迷は収まらない。混迷が続くと、一番メイワクを蒙るのは庶民大衆の暮らしだ。
 民間人を殺傷してるかどうかとか、子どもを大切にしてるかしていないかなどと馬鹿げた空理空論をやっていないで、「入会地の暮らし政治(common life politics)」の理念を掲げて、国際政治をやってもらいたいね。