mukan's blog

つれづれなるままに ひぐらしPCにむかいて

啓蟄の山歩き

2015-03-07 08:11:22 | 日記

 朝6時半に家を出る。今日は、体力が落ちているのではないかと心配しているカミサンが同行する。外環道、常磐道を走って筑波山の北側にある加波山に登る。加波山は、良く知られた「加波山事件」の地である。福島県令、栃木県令を務めた三島通庸の強圧的な行政に対して暗殺を試み、結果、加波山にたてこもって戦った事件である。福島事件や秩父事件と並んで、自由民権運動の一環と考えられ、戦後に顕彰碑などが建てられている。

 

 加波山神社里宮そばの空き地に車を置く。8時過ぎ。曇り空。近くで話しをしていた地元の男衆に聞くと、「そこに置いといていいじゃねえ」と軽い返事。里宮にお参りしてから、登りはじめる。すぐ上には加波山神社本宮というのが、けばけばしい飾りをつけて鎮座している。鳥居の前の駐車場も舗装されていて、立派。こちらは商売がうまくいっている様子だ。

 

 しばらくは舗装された林道。上へ行くと、採石場がある。大型のユンボがゴリゴリゴンゴンと音を立てて動いているから、目下稼働中である。削り取られた石の断面が黒く矩形にそそり立って異形を感じさせる。

 

 五合目を過ぎて舗装が途切れ、左への登山路に入る。石の混じる登山路は、着実に高度を上げる。上り口から標高差400mを1時間足らずで登っている。先を歩いているカミサンは、歩度が遅いのではないかと思っているようだ。だがコースタイムよりも早い。心配ない、と元気をつける。標高630mの稜線にポンと飛び出すと石の鳥居と「家内安全御守護」の赤い幟と加波山神社と記した石柱をみる。9時35分、歩き始めて1時間15分。

 

 簡易舗装の坂に上に「加波山神社拝殿」と名づけられた社殿がある。「拝殿の作法」に「二拝 四拍手 一拝」と記している。二拍手ではないのだというとカミサンが、出雲大社でも「四拍手」があったと話す。ひょっとすると渡来系ではなく現住系の神には四拍手として残っているのかもしれない。

 

 社殿の前と横に雪が消え残っている。ここから先の稜線沿いは、500mほどの距離、標高差80mほどの岩の上にいくつもの社殿がしつらえられ、「親宮本殿」「たばこ神社」「加波山神社本殿」「三枝祇(みえはらい)神社本宮本殿」と扁額が掲げてある。その末端の社務所の脇を抜けて「勅宣 正一位本宮 加波山大神社」と扁額する社を回り込むとさらに稜線をたどるルートに出る。筑波山がよく見える。

 

 広葉樹の切り払われた稜線上の明るい広場に出る。中央に「殉職の碑」と彫り込まれた石柱がある。肩書が三等空佐、二等空尉とあるから、航空自衛隊の乗機が墜落したのであろうか。「昭和三十七年九月」とあるから、52年前になる。裏をみると建てたのは「消防団」とあるから、遭難救助に出動した祈念としたのであろう。

 

 稜線の末端らしきところに来たところで、道が二手に分かれている。そのまま直進するとトラロープが張ってあり、それに沿って急に下る太い踏み跡がある。「これヘンだよ」とカミサン。地図を取り出して標高630mあたりをみると、わずかに西へ折れて稜線に沿うような登山路になっている。ガイドブックの文章を読むと、「しっかり整備された道をたどる」とある。分岐のところに戻ってみると、朽ち果てようとする手すりのついた階段がある。「ああ、これか」と思うが、「しっかり整備された」が似合わない。帰宅してガイドブックをみると2001年の出版になっている。ここ四半世紀の隔たりを考えると、こうなっていても仕方がない。木で土留めをした急な階段を降ると林道に出くわした。ひょっとすると、先に進んだ道を下ると、この林道の先に降りるのかもしれない、と思う。

 

 林道わきの広場に「自由の砦」と題した石碑が立っている。加波山事件を顕彰したものであろう。ガイドブックでは林道を渡って丸山に向かうとあった。四阿を抜けて踏み跡をたどるが、潅木の枝が広がって歩きにくい。人が通っていないようにみえる。抜けた先に大きな風力発電の風車が2基、グオーングオーンと低い音を立てて回っている。イヤな音だ。ところが先へすすむと、風車の末端で道が途切れる。山肌が大きく切り裂かれて斜面に登る道は続いていない。東へと探してみると、ルートは見当たらない。しかたない。林道に戻り、それをたどって一本杉峠へ向かう。途中道路工事をしている。登山道が途切れているが、何処にあるか知らないか尋ねる。「あちこちに看板はあるが、さて……」と応じる。ではではと、林道をたどる。どこをみていても、とても登り口になるような取り付きがあるように思えない急斜面である。そうやって、少し小高いところにベンチの設えられた大きな曲がり角に来る。そこが一本杉峠であった。たしかに杉の巨木が1本、それより少し小さいのもある。11時。お昼にする。

 

 「桜川氏白井→」の標示に従って、舗装されてないが車が通った跡のある林道を下る。むかしは車道だったのであろう。いまはすっかり崩れて、ところどころ沢のようになって、大量の水が流れている。緩やかな傾斜に、トントンと歩く。1時間近く歩くと、採石を産業としているのであろう、大きな屋根をもった工房というか、作業場が家並に連なり、目の前に関東平野が広がる。曇り空でなければ、奥武蔵の山並みが見えるのであろう。高度計をみながら、車を止めた加波山神社里宮を目指す。

 

 畑の向こうの枯れ木にワシタカ類が止まっている。トビとは思えない。背中を向けているので、回り込む道であらためて覗いてみると、ノスリだ。腹が白くノスリバンドが見える。ジョウビタキが目の前をうろちょろする。エナガが飛ぶ。そう言えば、ヤマガラもシジュウカラもみた。ヒガラらしき声も聴いた。むろんツグミもヒヨドリもスズメもハシボソカラスもハシブトガラスもみた。人がいないと鳥もいないような気もする。

 

 こうして車に着いたのは12時50分。4時間半の行動時間。カミサンも少し自信を取り戻したようである。帰宅したのは2時半。今日も快適な山であった。