mukan's blog

つれづれなるままに ひぐらしPCにむかいて

すべてはフィクション

2015-03-04 09:10:34 | 日記

 映画『愛して飲んで歌って』(アラン・レネ監督、2014年)をみた。レネは2014年の3月に91歳で亡くなっているから、遺作ということになる。私はもっと昔に作った作品を、彼の死を機会に再上映しているのだと思っていた。

 

 アラン・レネの映画といえば『去年マリエンバードで』というのが印象に残っている。あらためてWikipediaで調べてみたら、1961年の作品。こんな「ジョーク」が載っていた。登場するロブ・グリエは脚本を担当した。

 

 この映画を題材としたジョーク。ロブ=グリエ自身のお気に入りで、よく披露していたという。
警官「怪しい男だな。この辺りで窃盗事件が多発してるんだが、お前がやったんじゃないのか?」
男「違いますよ」
警官「本当か? 昨日の夜も事件があったんだが、昨日の夜はなにをしてた?」
男「昨日の夜は、映画を見てました。『去年マリエンバートで』って映画です」
警官「嘘じゃないだろうな?  本当に見たというなら、どんな話だったか説明してみろ!」

 

 この「ジョーク」は、映画を観た人でなければわからない。なぜなら「説明できない」のが主題、不条理劇と当時謂われた。上京したばかりで右も左もわからない私にとっては、眩暈がするような現代を象徴する映画であった。せいぜいサルトルを繙くくらいが関の山だったなあと、いま想い起している。

 

 そのレネの作品というので足を運んだのだが、映画『愛して飲んで歌って』は、面白くもおかしくもなかった。キャッチ・コピーは《世界の巨匠が最後に残したのは、フランスのエスプリとイギリスのユーモアのみごとな融合。3組の男女をめぐる軽妙洒脱な人間ドラマ》と謳っているが、ホントかいなと言いたくなるほど、展開は通俗的、仕立てには裏も表もない。《警官「嘘じゃないだろうな?  本当に見たというなら、どんな話だったか説明してみろ!」》と問われたら、「ぼけ老人の世迷言」としか言いようがない。もしひとつ主題にかかわるとすれば、絵コンテを下手になぞるようにしつらえられた書き割りのようなセット。経費を安上がりにするためにそうした、と思われかねないような粗末な仕立て。つまり、すべて世は安っぽいフィクションといいたいのかなと思える作りである。ま、当たりはずれは世の常とはいえ、こんな映画で「巨匠」の末路をみせられるのは、勘弁してもらいたいね。

 

 この映画を見に行く途上で読もうと、本を1冊もっていった。宮部みゆき『刑事の子』(光文社、2011年。もとは1994年に著された)。読んでいたら、謎解きのひとつに『去年マリエンバードで』という言葉が出てくる。さすが宮部。「藪の中」の物語りをどこからみているかによって、モノゴトは違って見えてしまうという仕掛けを、上手に映画の主題に引っ掛けている。その偶然の出逢いに、むしろ感嘆した1日であった。