自在コラム

⇒ 日常での観察や大学キャンパスでの見聞、環境や時事問題、メディアとネットの考察などを紹介する宇野文夫のコラム

★「イノシシの天下」

2017年11月03日 | ⇒トピック往来
   「イノシシの天下」という言葉を初めて聞いた。能登半島はマツタケの産地なのだが、このところイノシシがマツタケをほじくって各地で大きな被害が出ているようだ。そのことを、土地の人たちは「もうマツタケは採れない、イノシシの天下や」と嘆いているのだ。

    きょう(3日)能登町でキノコ採りをしている知人から聞いた話だ。アカマツ林の根元が掘られて、毎年採れるマツタケがなくなっていた。根元がほじくられているので、「おそらく来年からは生えてこないだろう」と肩を落とした。あちこちでこうしたイノシシによる被害があり、「能登のマツタケは壊滅だ」という。マツと共生する菌根菌からマツタケなどのキノコが生えるが、イノシシによる土壌の掘り返しで他の菌が混ざるとキノコは生えなくなることが不安視されているのだ。

   春にはタケノコが同じくイノシシに荒らされたとも知人は嘆く。さらに、「ブドウ畑もやられているようだ」と話してくれた。赤ワイン用のソービニオン系の品種を栽培している農家が被害に遭っているという。

   こうしたイノシシの被害に対して、「デンサク」と呼ばれる電気柵を畑の周囲に張り巡らす方法がある。イノシシの鼻の高さの地上40㌢ほどで設定して、イノシシに電気ショックを与えると近寄ってこない。問題もある。面積が限られる畑の場合はそれでよいが、マツタケ山のような広範囲を張り巡らすことはコスト的に難しい。ましてや、農作物と違って、年によって不作の場合もあるキノコの場合、デンサクを設けても労力が報われない場合もあるのだ。

   石川県の「イノシシ管理計画」(平成29年5月)によると、一般にイノシシは多雪に弱く、積雪深30㌢以上の日が70日以上続くことが生息を制限する目安と言われているが、平成以降で「70日」を越える年は平成3年、7年、18年、23年、24年、27年の5回のみで、いわゆる暖冬傾向がイノシシの生息拡大に拍車をかけている。

   能登半島の先端である奥能登地域(輪島市、珠洲市、穴水町、能登町)では平成22年からイノシシによる農業被害が出始め、年々増えている。このイノシシ被害に危機感を持った人々の中には狩猟免許を取って、鉄檻を仕掛けて捕獲に乗り出すケースも増えている。自治体ではイノシシの捕獲報奨金として1頭当たり3万円(うり坊など幼獣は1万円)を出している。
輪島市で捕獲されたイノシシは平成28年度690頭(同27年度117頭)、珠洲市で平成28年度432頭(同27年度119頭)と格段に増えている。

   問題は、捕獲頭数が増えたから頭数が減ったといえるのか。その逆だ。絶対数が増えているから捕獲頭数が増えたにすぎないのだ。イノシシのメスは20頭の子を産むといわれる。「イノシシの天下」。この現実をどうすればよいのか。

⇒3日(祝)夜・金沢の天気   はれ

   
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☆林業のイメ-ジが変わる

2017年11月02日 | ⇒トレンド探査
   これまでの林業のイメージがガラリと変わった。山林での木の切り出しは、林業機械 ハーベスターで立木の伐倒、枝払い、玉切り(規定の寸法に切断)、集積がその場で行われる。まさに1台4役なのである。これまで伐採や枝払いはキコリの職人技とばかり思っていた。林業機械を操縦するのは人だが、まるで山で働くロボットの光景だ。

   昨日(1日)金沢大学が実施している社会人の人材養成事業「能登里山里海マイスター育成プログラム」で、森林行政や木材加工に携わる受講生たちがチームで開催した「林業ワークショップ」があり、仲間内の勉強会なのだが、参加させてもらった。開催趣旨は「林業の現場でも機械化が進み、安全性と効率に優れた伐採・搬出用の様々な機械が活躍しているが、森林所有者や住民が目にする機会はこれまでほとんど無かった。知られざる木材生産のプロセスを間近で体験できるワークショップ」。

    午前9時、能登空港に集合し乗り合いで山林に入った。アテ(能登ヒバ)とスギの50-60年の人工林だ。ハーベスター=写真=が機敏に動いている。立木の伐倒、枝払い、玉切りなど造材を担うのはハーベスターヘッド。枝払いなどは1秒で5㍍もアッという間に。ディーゼルエンジンに直結した発電機で発電し、発電機から得る電力でモーターを駆動させる。燃料のこと気になって、休憩に入った操縦士に質問すると。1回の給油(軽油)で160㍑、2日でなくなるので1日当たり80㍑の計算だ。現地を案内してくれた能登の林業者は「道づくりは山づくりなんです。道づくりによって、山の資産価値も高まるんです」と。なるほど、その道づくり(森林作業道)も別の重機でこなしていく。山にマシーンは欠かせない。


   丸太切りで造材された木材は木材市場に運ぶのではなく、渡場(ドバ)と呼ばれる近くに設置した集積場に運搬車で運ぶ。ここに買い付け業者が来て、売買が始まる。いわゆる「山の地産地消」だ。トレ-サビリティでもある。これまで、ひと山いくらで売買が成立して、伐採したものは製材所に運ばれていたが、使える木と使えない木があった。そこで、現地で交渉して必要な木材を選んで交渉する。チップ材、あるいはベニヤ材、それぞれ用途に応じて業者が買い付けにくる。

   もう一つ、林業のイメージを変える光景があった。女性が関わっていることだ。この林業者は女性を「林業コーディネーター」として女性を採用している。5年前に法律が改正されて、森林所有者、あるいは森林の経営の委託を受けた業者が森林経営計画書を市町村などに提出して、伐採や造材、出荷など行う。その面積は30㌶以上であり、複数の山林の所有者に林材の切り出し、つまり山の資産価値を説明して事業計画に参加してもらう必要がある。

   とは言え、能登の山は「木材生産林として使えるのは3分の1しかないのが現状です」とSさん。3分の2が使えない理由はいくつかある。たとえば、道をつけるにしても山の境界が分からない、所有者が不明というケースが多い。また、能登の場合は農業用水として使う「ため池」などの水源近くで作業をすると、水が濁るの歓迎されないということもままあるようだ。

   いくつかハードルを超えて森林経営計画書を提出して認可されれば、所得税や相続税の優遇、金融機関の融資、森林環境保全直接支援事業(造林補助)などの補助金など得て、着手ができる。Sさんは「手入れされた森林を次世代につなぐこと。木材の価値を高め、利益を山に還元することを丁寧に説明すると、山持ちの方は納得してくれます」と微笑んだ。

⇒2日(木)朝・金沢の天気   はれ
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★大学連携の社会実装、11年目

2017年11月01日 | ⇒トピック往来
   日本が直面する課題、それは人口減少、急速な高齢化、老朽化するイ都市や道路のインフラ、活力を失う地方、荒廃する農地、財政を圧迫する社会保障全般など挙げればきりがない。まさに日本は課題先進国である。物質的な豊かさを享受した先進国ならではの解題でもある。むしろ、こうした課題の解決策を探ることができる日本は「課題解決先進国」でもある。

    こうした課題解決を目指すべき社会を「プラチナ社会」と定義し、地域でさまざまイノベーションに取り組んでいる自治体や企業、団体を表彰するのが、民間団体「プラチナ構想ネットワーク」(会長:小宮山宏元東京大学総長)だ。ちなみに、金のようにギラギラとした欲望社会を目指すのではなく、プラチナのようにキラキラと人が輝く社会づくりを理念に掲げている。その「プラチナ大賞」の第3回大賞・総務大臣賞(2015年)に、珠洲市と金沢大学が共同でエントリーした「能登半島最先端の過疎地イノベーション~真の大学連携が過疎地を変える~」が選ばれた。プラチナ構想ネットワーク事務局から、受賞から2年間の取り組みを報告してほしいと依頼され、過日(10月26日)、同市の担当者と2人で東京・イイノホールでに出かけた。
  
   以下、報告の概要だ。金沢大学から160㌔北、半島の最先端で珠洲市から廃校舎をお借りして、能登学舎を設立した。最初は、三井物産環境基金を活用して、市民交流と研究を兼ねた拠点である「里山里海自然学校」というプログラムをつくった。博士研究員を1人配置して、市民と一緒になって生物調査や田んぼの生き物など行った。研究者と市民がともに調査に参加する、オープンリサーチという手法だ。その翌年2017年に文科省の事業費で「能登里山マイスター養成プログラム」という社会人を対象とした人材養成プログラムをスタートさせた。

   能登の農業や森林や海の資源、文化資源を活用して地域の生業(なりわい)づくりをしていく若者を育てるというコンセプトだ。ここに若手教員や博士研究員らスタッフを増員して、独自の研究調査も実施している。能登における里山里海の価値を再評価すること、能登における持続可能な到達目標SDGsをどのように進めていくか、国連のFAOが認定する世界農業遺産のグローバル連携、そしてベンチャー・エコシテム、つまり起業環境の構築を併せてミッションとしている。マイスタープログラムの実施に当たっては、同市の自然共生室との連携を密にしている。大学の研究調査の総合窓口でもある。こうした大学の専用の窓口を持つ自治体は全国でも少ない。

   マイスタープログラムの卒業要件は卒業課題研究だ。15分の公開での発表を審査する。このプレゼンまでに調査やヒアリング、発表の技を磨くわけだが、受講生全員が発表にこぎつけることができるわけではない。人前で発表し、卒論の審査にパスしたという実積が本人のモチベーションをとても高めることになる。卒業課題研究のテーマは、農業に関することが25%ともっとも多く、次が林業、3番目が起業などとなっている。ツーリズムや子育て環境づくりなどとても多彩なテーマだ。144人の修了生を輩出したが、その後も自らの課題研究を極めて実装するケースが多く、社会的ビジネスとして起業したものが11人、農林漁業の担い手として14人が新規就業している。能登でノベーションを担うのは、彼らだと確信している。

   同市の担当課長はこの秋に実施した国際芸術祭に触れ、アートの地域インパクトの大きさを実例を挙げて報告した。さらに市長のビデオメッセージが会場に流してもらった。20分余りの報告だったがコンパクトにまとまったものとなった。会場の最前列で小宮山会長がうなずいて聞いておられる様子が見えた。

   同市と金沢大学の連携事業はもう11年になる。地域と大学との連携は型にはまったものではない。「大学でしかできないことを、大学らしからぬ方法で社会実装する」。いつもの肝に銘じていることである。

⇒1日(水)朝・金沢の天気   はれ
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