自在コラム

⇒ 日常での観察や大学キャンパスでの見聞、環境や時事問題、メディアとネットの考察などを紹介する宇野文夫のコラム

★「奇跡のイラスト」

2015年06月24日 | ⇒トピック往来
  今年度から小学校で使われている1年生の国語の教科書に、制作上のミスから腕が3本あるように見える女の子が描かれたイラストが掲載されていたとして、発行元の三省堂が自主回収と交換を始めたとニュースになっている。「まさか」と一瞬思った。文字一句でも厳しい、あの教科書検定のチェックをスルリとかいくぐって、である。※掲載画像と本文はリンクしていません。

  ニュースを総合すると、女の子が花輪を両手で持っているにもかかわらず、もう1本の手が背後の机にあり、腕が3本あるように見えるという不思議な状態になっていた。教科書は、東京都世田谷区などの小学校で使用されていて、世田谷区の教育委員会から5月に、「イラストの子供の腕が3本あるように見える」と三省堂に連絡が入り、イラストを調べたところ、下書きを消し忘れたままの状態で印刷されたことが分かった、という。

  三省堂では、文部科学省への訂正の申請を行い、誤りを正した教科書1万冊を、教科書を使用している地区・学校に連絡し、順次、新しい教科書への差し替えを行っていく予定だという。三省堂のホームページを調べると、真摯なお詫びのコメントを掲載されていた。以下。

      『しょうがくせいのこくご 一年上』イラストの誤りについてのお詫び

 このたび、弊社の国語教科書『しょうがくせいのこくご 一年上』5ページの絵に誤った箇所が見つかりました。教科書において、このような誤りを起こしてしまいましたことを衷心よりお詫びいたします。誠に申し訳ございませんでした。つきましては、文部科学省に訂正の申請を行い、誤りを正した新しい教科書をご用意いたしました。弊社の教科書をお使いいただいている地区・学校にご連絡して、順次、新しい教科書に差し替えさせていただく所存です。児童の皆さま、そして保護者の皆さまには多大なご迷惑をおかけすることになりますが、どうかお許しください。

 今後はこのようなことを起こさぬよう、全社をあげて慎重に編集作業に取り組んでまいりますので、何卒ご容赦のほどお願い申し上げます。

  以上がコメントである。とくに「どうかお許しください」「何卒ご容赦のほどお願い申し上げます」と丁寧に謝っているのが印象的だ。出版社は文字表現で生業(なりわい)を立てている。言葉でその真摯な気持ちが伝われなければ企業としての価値はないと思い、あえて謝罪のコメントをチェックした次第である。

  ところで、教科書は文部科学省の管理下にある。学校教育法により、小・中・高等学校の教科書については教科書検定制度が採用されている。教科書の検定は、民間で著作・編集された図書について、文部科学大臣が教科書として適切か否かを審査し、これに合格したものを教科書として使用することを認める制度だ。今回の教科書にしても、何人もの検定員の目で確認されているはずだ。その目をかいくぐって、世に出たイラストとなる。もう少しうがった見方をすると、文章表現は一字一句を細かくチェックするが、イラストなど図や写真に対してはそんなに厳しくないということか。

  それにしても、このイラスト、教科書検定制度下にあって、ある意味で奇跡のデビューを果たしたと言えなくもない。

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