このニュースには驚いた。「なぜ再び」と。日産自動車の前会長、カルロス・ゴーン氏が4日早朝、東京地検特捜部に再逮捕された。本人の姿は隠されていたが、特捜部の車で自宅マンションから連れ出される詳細な映像がテレビで報じられた。この逮捕前にフランスのテレビ局「LCI」がネットを通じてゴーン氏にインタビューした映像が日経新聞Web版に掲載されている。「私は無罪だ」「フランス政府に言いたい。私はフランス人だ。フランス人としての権利を守ること求める」などと語っている。特捜部とゴーン氏側によるメディア戦が繰り広げられている。
ゴーン氏側のメディア戦の仕掛け人は弘中惇一郎弁護士だろう。メディアを逆手で上手に使う。印象的な事件は、2009年6月に障害者団体向け割引郵便制度悪用事件に絡んで、厚生労働省の課長だった村木厚子氏が大阪地検特捜部に逮捕された事件。同年11月に保釈請求が認められ、村木氏が保釈後に記者会見した。容疑事実を強く否定し、改めて無罪を主張した。会見で被告に事実関係を語らせることで、被告とメディアとの距離感を近づける。すると、メディアは検察側の捜査手法に目を向け始める。この事件では翌年9月、大阪地裁は村木氏に無罪の判決。その後、主任検事が証拠物件のフロッピーディスクの内容を改ざんしたことがメディアによって発覚する。
ゴーン氏は記者会見を予定していた。今月3日に開設したツイッターで「I'm getting ready to tell the truth about what's happening. Press conference on Thursday, April 11.」(何が起きているのか真実をお話しする準備をしています。 4月11日木曜日に記者会見をします)と述べている。うがった見方だが、記者会見となれば状況が一変するかもしれない。東京地検特捜部への捜査手法にメディアの目が向きだすと収拾がつかなくなる。村木厚子氏の事例のように。「弘中メディア戦略」を警戒したのか。逮捕はツイッターの翌日の4日早朝なのでタイミングが合い過ぎる。
ゴーン氏の逮捕は、有価証券報告書に自身の役員報酬の一部を記載しなかったとして金融商品取引法違反で2回。さらに、日産に私的な投資で生じた損失を付け替えたとする特別背任で3回目の逮捕。今回4度目の逮捕容疑は、ゴーン氏が中東オマーンの販売代理店に日産資金17億円を支出し、うち5億6300万円をペーパーカンパニーを通じてキックバックさせて日産に損害を与えた会社法違反(特別背任)だ。このオマーンの販売代理店を経由した資金のキックバックは、フランスのルノーでも疑惑が浮上している。会社組織の権力者による不透明な巨額資金の流れが世界に拡散している。
「Power tends to corrupt, and absolute power corrupts absolutely.(権力は腐敗する。絶対的な権力は絶対に腐敗する)」。イギリスの歴史家、ジョン・アクトン(1834-1902)はケンブリッジ大学で近代史を教え、フランス革命を批判した。ゴーン氏をナポレオン・ボナパルトにたとえると語弊があるかもしれないが、栄華の極みの最終章には没落がある。今回の事件に「権力の腐臭」を感じる。
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