金沢市内のスーパーで見つけた、最近お気に入りのパンがある。「米粉 金時豆パン」=写真=。金時豆はほの甘く、米粉のしっとり感となんともマッチしていて、つい、2、3個と買ってしまう。1個180円。還暦を過ぎて「豆パン」に入れ込むとは思ってもみなかった。では、これが米粉ではなく、小麦粉だったらどうだろうと考えてみる。
小麦粉にはタンパク質のグルテンがあるので、出来上がりにはふっくら感がある。でも、金時豆との帳合い(バランス)を考えると米粉のしっとり感が味覚的にはあっているだろう。小麦粉パンだったら、レーズンの方が合っているような気がする。「米粉 金時豆パン」はあんパンほど甘くなく、金時豆の存在感を引き立てている。そんなストーリーを描いている。個人的な好みかもしれないが。
米粉と言えば、以前、大学で講義をしていただいたパテシエの辻口博啓氏からこんな話を聞いたことがある。辻口氏の米粉を使ったスイーツは定評がある。当初、職人仲間から「スイーツは小麦粉でつくるもので、米粉は邪道だよ」と言われたそうだ。それでも米粉のスイーツにこだわったのは、小麦アレルギーのためにスイーツを食べたくても食べれない人が大勢いること気が付いたからだ。高齢者やあごに障害があり、噛むことができない人たちのためのスイーツもつくっている。辻口氏は能登半島の七尾市生まれ。実家はもともと和菓子屋を営んでいて、抵抗感もなくスイーツの業界に入った。
辻口氏のエピソードと似た話をもう一つ。洋食のオムライスの発祥の地は大阪・浪速と言われる。1925年、通天閣が見える繁華街で洋食屋を開業した20代の料理人が、オムレツと白ご飯をよく注文する客がいることに気が付いた。客は胃の具合が悪いのだという。そこで、同じいつもメニューではかわいそうだと、マッシュルームと玉ねぎを炒めて、トマトケチャップライスにしたものを薄焼の卵でくるんで「特製料理」として提供した。すると客は喜んで「オムレツとライスを合わせて、オムライスでんな」と。これがきっかけで「オムライス」をメニュー化したのだという(「宝達志水町ホームページ」より)。料理人は北橋茂男氏(故人)、能登の人だった。生まれ故郷の宝達志水町では毎月23日を「オムライスの日」と定め、「オムライスの郷」プロジェクトを進めている。
能登には人に気遣いをする文化風土があり、「能登はやさしや土までも」との言葉が江戸時代からある。ユネスコの無形文化遺産にも登録されている能登の農耕儀礼「あえのこと」は、目が不自由な田の神様を食でもてなす行事だ。そう考えると、食文化は「うまさ」というより、作り手の「やさしさ」から生まれるのかもしれない。
⇒21日(月)朝・金沢の天気 はれ
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