15日付の「自在コラム」で紹介した霊長類学者、河合雅雄氏は現在、NHK教育の番組「知るを楽しむ」の月曜企画「この人この世界」(8回シリーズ・午後10時25分-50分)に出演中だ。これまでの番組で、1953年、宮崎県の幸島(こうじま)で「イモ洗い」のサルが発見され、その洗いの行動が食物カルチャーとしてサル集団に定着する様子を観察し、世界的な評価を受けたことなどが紹介された。その河合氏がいま一番気にかけて取り組んでいることが2つある。里山と子どもたちのことだ。
朝日・大学パートナーズシンポジウム「人をつなぐ 未来をひらく 大学の森―里山を『いま』に生かす」に講演をいただくために、先日、兵庫県篠山市の自宅を訪ねた。その折りも、河合氏はこう話した。「いまは里山というのが一種のブームで、里山の復元などの活動が行われていて、それはそれで結構なことだ。しかし、里山を何のために復元するかという理念がいまひとつはっきりしない」といぶかった。続けて、「日本人はもっと森あそびをすればいいのに」と。「あそぶ」ことでカルチャーとして定着する。自然保護や環境保全のためという目的だけでは息苦しい、長続きしない、との意味に私は受け取った。河合氏の基調講演のタイトルはこの「森あそび」の話からつけた。
子どもたちと自然とのかかわりについても関心を寄せ、 「子どもたちから自然を取り上げたのは大人。子どもたちに自然を返してあげる努力を大人がしなければ…」と。その試みの一つが自らのアイデアで始めた「ボルネオジャングル体験スクール」だ。館長となった兵庫県人と自然の博物館の取り組みとして1998年から続けている。同博物館と提携したマレーシアの大学の原生林保護区でのキャンプに子どもたち20人余りを連れて行く。漆黒の闇を遠足したり、80㍍もある木登りも自由にさせる。ある種のショック療法だが、「子どもたちは確実に変わるよ」と目を細めた。81歳。草山万兎(くさやま・まと)のペンネームで子ども向けの本も書き続けている。
NHK教育「知るを楽しむ」の7回目(11月21日放送)は「里山復興と宮沢賢治」、最終回となる8回目(11月28日放送)は「シートンと私の動物記」がテーマだ。夢多き宮沢賢治とシートン、そして「天才」河合雅雄氏の夢もまた枯れてはいない。
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