自在コラム

⇒ 日常での観察や大学キャンパスでの見聞、環境や時事問題、メディアとネットの考察などを紹介する宇野文夫のコラム

★にちにちこれこうじつ

2018年10月23日 | ⇒トピック往来

  「日日是好日」という禅語を掛軸や額で何度か見たことがあり、「ひびこれこうじつ」と読んでいた。意味も自分勝手に「日々生きる幸せな日」などと解釈していた。 きょう(23日)JR金沢駅前にあるイオンシネマ金沢フォーラスで映画『日日是好日』を鑑賞して、「にちにちこれこうじつ」と読み、意味ももっと深いことが分かり、自らの勝手解釈の浅はかさを思い知った。

    物語は樹木希林が演じる茶道の先生の元で、主人公を演じる黒木華が大学生の20歳の春にお茶を習い始めことから始まる。最初は少し息苦しさを感じた。何しろ、一つの茶室で帛紗(ふくさ)さばき、ちり打ちをして棗(なつめ)を「こ」の字で拭き清める。茶巾(ちゃきん)を使って「ゆ」の字で茶碗を拭く。多くのシーンは点前だ。主人公が少し重苦しい「静」の空間から出て、海辺でははしゃぐ「動」の空間を交互に交えながら物語が展開していく。

    面白いのは二十四節季の茶室が描かれ、茶道の四季を際立たせている。四季は「立春」「夏至」「立秋」「小雪」「大寒」などと移ろっていく。同時に掛け軸と茶花が変わり、炉から風炉へ、菓子も季節のものが次々と。外の風景も簀(す)戸、障子戸と季節が移ろう。夏のシーンで主人公が床の掛け軸の「瀧」と茶花のムケゲと矢羽ススキを拝見する姿がある。瀧の字は流れ落ちる滝のしぶきをイメージさせ、「文字は絵である」と悟る。小さな茶室での物語であるものの、季節感あふれる多様な茶道具に見入り、茶道の世界の広さと深さに圧倒される。

    樹木希林の演技はまさに「お茶の先生」。初釜の場面で、濃茶の点前をする長めのシーンがある。複雑な手順も自然にこなし、流れが身についていると感じさせる。作法と演技を一体化させる才能はどこから来るのだろうか。主人公は失敗と挫折、人生の岐路に立たされながらも、茶道を通じてその清楚さに磨きをかけ、ヒロインとして輝きを放つ。この映画はお茶室で繰り広げられる、茶道という「道」の壮大なドラマかもしれない。日日是好日の意味は、喜怒哀楽の現実を前向きに生きる、その一瞬一瞬の積み重ねが素晴らしい一日となる、そんな解釈だろうか。

    映画で、弟子の一人が建水を持って後ろ向きにひっくり返るシーンがある。静かな空間でのダイナミックな転倒にドキリとして、そして笑いが込み上げてくる。映画を見終えて、イオンシネマ金沢フォーラスを出ると、広場がある。そこにはヤカンがひっくり返り、フタが外れている芸術作品『やかん体、転倒する。』(三枝一将作)=写真・下=がある。映画のシーンとイメージがダブって、また笑いが込み上げてきた。映画を見た人でないと笑えないかもしれない。

⇒23日(火)夜・珠洲市の天気    はれ

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