自在コラム

⇒ 日常での観察や大学キャンパスでの見聞、環境や時事問題、メディアとネットの考察などを紹介する宇野文夫のコラム

☆2013備忘録‐2

2013年12月29日 | ⇒ドキュメント回廊
  新しく世界農業遺産(GIAHS)サイトとして認定されたのは、「静岡の茶草場農法」(静岡県掛川市など)、「阿蘇の草原と持続的農業」(熊本県)、「国東(くにさき)半島宇佐の農林漁業循環システム」(大分県)、「会稽山の古代中国のトレヤ(カヤの木)」(中国・浙江省紹興市)、「宣化のブドウ栽培の都市農業遺産」(中国・河北省張家口市)、「海抜以下でのクッタナド農業システム」(インド・ケララ州)の6つだった。国連食糧農業機関(FAO、本部ローマ)、日本の農林水産省などが主催した「世界農業遺産国際会議」がことし5月、能登半島・七尾市で開催された=写真=。

        世界農業遺産を次世代につなぐプラットフォームとして

  国際会議には、FAOトップのグラジアーノ・ダ・シルバ事務局長をはじめ、農林水産省の副大臣など国内外の関係者600人(20ヵ国)が参加した。2年に一度の国際会議では冒頭の新たなサイトの認定だけでなく、「能登コミュニケ(共同声明)」が採択され、「先進国と開発途上国の間の認定地域の結びつきを促進する」ことなどの勧告が出された。

  このコミュニケを今後の能登にどう活かせばよいのか。「能登の里山里海」のGIAHSサイト認定(2011年6月)は、いわば、能登の暮らしそのものが国際的に高く評価されたということであり、能登地域の住民や自治体にとって大きな自信となっている。今回の世界農業遺産国際会議の成功は、その自信をさらに深めることとなり、その結果、能登地域では、世界農業遺産に対する地域住民や自治体の関心や、認定を活用した地域づくりへの機運や意欲が高まりを見せている。このチャンスを活かし、もう一歩踏み込んで、「能登の里山里海」を世界に発信できないか、金沢大学里山里海プロジェクトの代表、中村浩二教授と思案をめぐらしていた。

  アイデアがもたらされたのはことし5月上旬だった。JICA国際協力機構の北陸支部からの「草の根技術協力事業(地域経済活性化特別枠)」の案件だった。この事業は、地方自治体やNGO、大学、公益法人などの団体による、開発途上国の地域住民を対象とした技術協力を、JICAが政府開発援助(ODA)の一環として実施している。ここでいう「技術協力」とは、人を介した協力を通じて、知識・技術や経験・制度などを移転することを指している。これが我々の腑に落ちた。

  金沢大学の里山里海プロジェクトが能登で実施している「能登里山里海マイスター」育成プログラムは人材養成、つまり社会人教育プログラムなのだ。これを7年続け、これまで84人が巣立っている。次なる目標を、国際的な視点を持ちながら地域の直面する課題解決に取り組むグローカル(グローバル+ローカル)な人材の育成に置いている。

  このノウハウ移出を同じ世界農業遺産であり、世界文化遺産(ユネスコ登録)でもあるフィリピン・ルソン島のイフガオ棚田で実施できないか。実は、これはフィリピン大学の教授たちから請われていたことでもある。1月に同大の教授2人を能登に招き、里山マイスターの修了生たちと意見交換してもらった。自然と共生(生物多様性)の視点、地域におけるビジネスを実践している彼らの話に熱心に耳を傾けていた。この後、「この人材養成プログラムをぜひイフガオでやってもらえないだろうか」とオファーがあった。若者の農業離れが進むイフガオで、世界遺産の国際価値を活かして未来につなげる若者の人材教育が必要だと痛感した、という。

  能登とイフガオで人材養成プログラムを実施することの意味は、相互交流や技術協力、学術交流などさまざまにリンクする。世界農業遺産を次世代につなぐプラットフォームにできないか、ついそこまで期待を膨らませてしまった。5月30日、世界農業遺産国際会議の現地視察で同席させていただいた農林水産省の審議官にこの「夢」をこぼした。すると、同省の海外技術協力官の方を紹介いただき、アドバイスもいただいた。その後、6月25日に提案者が石川県、実施者が金沢大学という協力の枠組みで、「世界農業遺産(GIAHS)イフガオの棚田の持続的発展のための人材養成プログラムの構築支援事業」の申請にこぎつけた。9月上旬に内定の知らせがあった。

  いくつかの意味付けがあると考えている。大きくは国際会議のコミュニケの履行だろう。さらに、地域のグローバル人材の育成も含んでいる。国際的なネットワークづくりの端緒をつかんで、能登地域の活性化をはかることにもなる。「能登の里山里海」の豊かな価値を地域住民自身が評価し、夢ある未来を描き、地域の課題に取り組むマインドの醸成につなげ、世界につながる魅力ある地域の創造により、若者の都市部への流出を防ぎ、都市部からの移住の促進につなげていく。また将来、本事業が育成する人材が中心となり、自然と共生し、持続可能な社会モデルを実現し、世界へ発信する「国際協力交流センター」の機能が能登に生み出されることを期待したい。夢はさらに膨らむ。

⇒29日(日)午前・金沢の天気    はれ
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