自在コラム

⇒ 日常での観察や大学キャンパスでの見聞、環境や時事問題、メディアとネットの考察などを紹介する宇野文夫のコラム

☆「痛車」と夢二

2012年07月08日 | ⇒トピック往来
 「痛車(いたしゃ)」という言葉をご存知だろうか。車体に漫画やアニメ、ゲームのキャラクターなどのステッカーを貼り付けたり、塗装した乗用車のことだ。あるいはそのような改造を車のことを指すそうだ。「萌車(もえしゃ)」とも呼ばれるようだ(「ウイキペディア」より)。面白いのは、同様の原付やバイクを「痛単車(いたんしゃ)」、自転車の場合は「痛チャリ(いたチャリ)」、アニメの装飾を施したラッピング電車を「痛電車(いたでんしゃ)」とこの世界では呼ぶようだ。。ただ、イタリア車を意味する「イタ車」なら、その意味は分かるが、なぜ「痛車」と呼ぶのか、ネットで調べてもよく分からない。

 きょう(8日)現物を見た。30台は並んでいただろうか。金沢市郊外の湯涌温泉をドライブしたときのことだ。中心街の県道に整然と並んでいた。運転者はどんな人たちかと見渡すと、サングラスをかけた、いかつい感じの兄さんたちかと思いきや、普通の30代くらいの男たちなのである。広場で楽しそうに語り合っている。外見的に目立という人たちではなさそうだ。女性は見当たらなかった。

 車は派出だ。テレビアニメ『侵略!?イカ娘』や、映画『けいおん!(K-ON!)』などボンネットなど車体からはみ出るように存分に描いてある。金沢、石川、富山のナンバーが多い中で、「聖地巡礼」と記された岐阜や姫路もあった。おそらくアニメの舞台となった実在のロケーションを旅する「聖地巡礼ツアー」の車なのだろう。ちなみに、インターネットで「聖地巡礼」を検索すると、「五大聖地」というのがあって、「鷲宮神社、木崎湖、豊郷小学校旧校舎、尾道、城端」がその場所なのだそうだ。

 今度はガラス越に車の中を覗いてみた。散らかし放題の車内と思ったら、大変な予断と偏見だった。全部を点検したわけではないが、どれも整然として、ゴミや空き缶がないのである。フィギュアなどもフロントガラス付近にきちんと並んでいる。

 ところで、この日は特別な日でもないのに、湯涌温泉になぜ痛車が集まっていたのか。2011年4月から9月に放送されたテレビアニメ『花咲くいろは』(全26話)の聖地なのだ。東京育ちの女子高生「松前緒花」が石川県の「湯乃鷺(ゆのさぎ)温泉」の旅館「喜翆荘」を経営する祖母のもとに身を寄せ、旅館の住み込みアルバイトとして働きながら学校に通う。個性的な従業員との確執や、人間模様の中で成長しいく。湯乃鷺温泉の舞台となったのが湯涌温泉だった。菓子屋の店員に尋ねると、毎週末には「なんとなく集まってくる」のだという。

 金沢で長く住んでいると、湯涌温泉でイメージするのは、あの独特の美人画で知られる竹久夢二だ。愛人・彦乃と逗留した温泉場。大正モダン風に描かれる、彦乃のイメージ画=写真・下=が印象に強い。そして、戦後間もなく、湯涌温泉にあった「白雲楼ホテル」(現在撤去)をGHQ(連合軍総司令部)が接収して保養施設にしていた。あのマッカーサーも利用したとされる。さらに、この湯涌温泉には「江戸村」があり、芽葺き農家などの歴史的建造物が移築されている。この湯涌温泉に来るとそうした歴史を感じてきたが、思いもかけず痛車と遭遇して「現代」を感じた。

⇒8日(日)夜・金沢の天気   くもり
コメント
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