自在コラム

⇒ 日常での観察や大学キャンパスでの見聞、環境や時事問題、メディアとネットの考察などを紹介する宇野文夫のコラム

★ボラの話

2012年05月01日 | ⇒ランダム書評
 石川県の能登半島に穴水(あなみず)町がある。昨年暮れ、友人に連れられて、「幸寿し(こうずし)」という店に入った。寿司屋には珍しくワインが飲める店という。ワインに合うつまみを頼むと、カラスミが出された。カラスミは地元で獲れる魚のボラの卵巣を塩漬けにして陰干ししたもので、珍味として知られる。この店がつくるカラスミは柔らかく、まるでチーズのような濃厚な風味なのである。友人はシャルドネ(白)が合うといい、私はヤマソービニオン(赤)だろうといい、地元で醸造されているワインをオーダーして、カラスミをつまみながら話が盛り上がった。それ以来、ボラのことが気になっていた。

 先日、能登空港の観光ガイドコーナーで『Fのさかな‐22号』という無料の冊子を手にした。特集が鯔(ぼら)だった。この冊子の名前が面白い。「F」はフィッシュ(魚)やフード(食)、フレンド(友)の意味合いや、能登半島の地形も「F」に似ているので、さまざまな意味をかけているらしい。要するに「能登半島の魚」という意味だ。石川県漁業協同組合などがスポンサーになっている。ボラの特集記事は読み応えがある。いくつか抜粋しながら、寿司屋での談義として再構成してみた。

<熊五郎(熊さん)>
3・11後の景気はどうだい。ギリシアやイタリアもガタガタ、中国も冷めてるね。
<八五郎(ハつあん)>
久しぶりに会ったというのにのっけから景気の悪い話だな。どうだい、駅前の寿司屋でワインでもひっかけるか。
<ハつあん>おやじ、上モノは入っているかい。まず、カラスミ出してくれ。オレはいつものシャルドネ、熊さんは赤かい…。
<熊さん>
このカラスミは味わい深いね、ミモレットなんかよりずっとチーズらしい。
<ハつあん>
ところで、このカラスミは穴水でとれたボラの卵巣なんだ。長崎と違って少々小ぶり。ボラはオボコ、イナッコ、スバシリ、イナ、ボラ、トドと成長につれて呼び名がかわるからめでたいね。
<熊さん>
とどのつまりが出世魚というわけかい、ブリと同じく。
<ハつあん>
そう、その「とどのつまり」がボラのトドから由来している。これ以上、大きくならない、行き着くところがという意味なんだ。
<熊さん>
おやじ、ソービニオンをボトルで出してくれ。へえ~、ハつあんは物知りだね。ほかにどんなボラ由来の言葉があるんだい。
<ハつあん>
青二才というのがあるだろう、あれ伊勢で若いボラをニサイと呼ぶんだ。さらに未熟を意味する青をくつけて、アオニサイとういわけ。からっきし世間を知らない若者という意味かな。
<熊さん>
いい調子になってきたね。おやじ、シャルドネもボトルで。
<ハつあん>
熊さん、注文っぷりがいいね。粋だね。勢いがあって、ちょっと斜に構えた感じのことを「いなせな」というだろう。あれもボラだよ。昔ね、江戸の日本橋の魚河岸に集まる若い衆がピチピチした若いボラ(イナ)の背姿に似た鯔背銀杏(いなせいちょう)のマゲを結ったんだ。そこからきているね。
<熊さん>
ハつあん、名調子だね。ささ、ずずっと・・・。

⇒1日(火)朝・金沢の天気  はれ

コメント
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