自在コラム

⇒ 日常での観察や大学キャンパスでの見聞、環境や時事問題、メディアとネットの考察などを紹介する宇野文夫のコラム

★地デジ化の扉・上

2010年07月24日 | ⇒メディア時評

 アジアで初めて、放送の地上アナログ波が停波した。こう表現すると、少々おおげさに聞こえるかも知れないが、実際にはそのくらいのインパクトはある。きょう7月24日正午で能登半島・能登町明野地区にある珠洲中継局から発信されていたテレビのアナログ放送を終了し、デジタル放送へ移行した。珠洲市の「ラポルトすず」で開催された記念セレモニー(午前11時30分開始)に出席した。

            扉を開いた人のリスク・マネジメント

  停波に向けたカウントダウンの声が上がったのは、正午より30秒ほど前だ。地元の民放テレビ局の社長らが「スイッチオンセレモニー」に立ち会い、定刻にステージ上に並べた民放とNHKのアナログ放送のモニター放送が一斉に砂の嵐状態になった。すかさず、北陸総合通信局長の吉武洋一郎氏による「珠洲地区デジタル化完了宣言」があった。つまり、ここにアジアでの地デジの第一歩を記したと宣言したのだ。

  きょうは「日本全国地デジカ大作戦」と題して各地で広報イベントが繰り広げられたが、東京の帝国ホテルでは「~地上・BS 完全デジタル移行まったなし1年前の集い~」(主催:デジタル放送推進協会)が開催され、珠洲会場と東京会場が双方向の中継で結ばれた。原口一博総務大臣から「珠洲市は全国に先駆けて完全デジタル化の扉を開いた。今後の発展に期待したい」と珠洲市に向けてお祝いのメッセージが送られた。  新しい構想が打ち上げられた。珠洲市での記念セレモニーであいさつに立った総務省官房審議官の久保田誠之氏が、珠洲で停波で空いた周波数帯(ホワイト・スペース)で、観光目的などに利用する「エリア・ワンセグ放送」の実証実験を行うと述べたのだ。アナログ放送の停波に伴うエリア・ワンセグの実験は全国初ということになる。ホワイト・スペースに関しては、マルチメディア放送や携帯電話、道路交通システムなどへの電波割り当てが検討されている。当初は珠洲市役所周辺の数百㍍、徐々にエリア拡大して地域振興を目的としたエリア・ワンセグにする構想という。ホワイト・スペースの活用によって、地デジの意義付けが実感できるものとなるに違いない。

  ところで、完全デジタル化の扉を開いた珠洲市だが、その旗振り役は同市の泉谷満寿裕市長だった=写真=。総務省のアナログ停波リハーサル事業(2009年度)の候補地に名乗りを上げた。2007年3月25日の能登半島地震では、多くの家庭で屋根のアンテナが落下あるいは向きがずれ、またテレビ本体が棚から床に落ちてテレビ視聴ができなくなった。家電量販店の進出で数少なくなった地元の電器店が右往左往する光景を目の当たりにしてきた。さらに同市では過疎・高齢化が進む。6600世帯のうち40%が高齢者のみの世帯で、さらにその半分に当たる1000世帯余りが独居である。

 泉谷市長には、「地デジに高齢者世帯は対応できるのか。地震のときのように市民がうろたえるのではないか」と、予想されるこの事態をどう乗り切るか常に問題意識としてあったという。「2011年7月24日」は、表現は適切でないかもしれないが、「予定された災害」である。こうした首長の切実感が停波リハ-サルにいち早く名乗りを上げ、着実に地デジ化100%の道をつけた。これはリスク管理といった方が分かりやすいかも知れない。

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