自在コラム

⇒ 日常での観察や大学キャンパスでの見聞、環境や時事問題、メディアとネットの考察などを紹介する宇野文夫のコラム

★人質の論理

2006年07月20日 | ⇒トピック往来

   一連のニュースを読み込んでいくと、これまで気づかなかったことが見えてくることがある。今回はとっさにそのタイトルが浮かんだ。「人質の論理」である。

  20日付の新聞各紙によると、北朝鮮が来月に予定された南北離散家族再会行事を取り消し、金剛山面会所の建設を中断すると韓国側に通報してきたという。この韓国と北朝鮮の離散家族の再会は南北の赤十字が窓口になって開催されているが、8月9日-11日、21-23日に予定されていたのを北朝鮮側が一方的に中止すると通告してきたというもの。

  北朝鮮側の中止理由は「南側がコメや肥料など人道的な事業を一方的に拒否した」である。この中止通告には伏線ががある。今月13日に韓国・釜山で開かれた南北北閣僚級会談で、北朝鮮代表団が「韓国の一般国民は金正日総書記の先軍政治の恩恵にあずかっている」と発言し、その代価としてコメ50万㌧の援助を要求した。しかし、この要求に対し、ミサイル発射問題から韓国側がコメの援助を凍結すると回答したのである。今回の南北離散家族再会行事の中止の直接の原因はおそらくこの韓国側の措置に対する主意返しである。

  もちろん、ミサイル発射問題で国連安保理が対北朝鮮決議を採択(15日)、国際的に四面楚歌になっている北朝鮮が「立場をはっきりせよ」と韓国政府に揺さぶりをかけているという見方があっても不思議ではない。20日付の中央日報インターネット版によると、盧武鉉大統領は19日の青瓦台での安保関係閣議で、北朝鮮がミサイルを打ち上げたことについて「状況の実体をこえて過度に対応し不必要な緊張と対決の局面を作っている一部(日本など)の動きは、問題解決にプラスにならない」と述べたといわれる。北側に配慮したコメントである。

  話を元に戻す。離散家族とは言うものの、先日話題になった金英男さんら韓国人拉致被害者も含まれる。拉致をしておきながら、韓国に帰さずに止めておき、韓国から家族を呼び寄せる。これは一体どういうことか。日本でも欧米でも、家族を誘拐されたらあらゆる手段を使って、奪還することを考える。だから、こうした「犯人」の意に沿った「離散家族の再会」などという手法には乗らない。日本人拉致被害者の横田めぐみさんの両親が北朝鮮には行かないのも、これは人質奪還闘争だからだ。

  ところが、今回の離散家族の再会問題にしても、北朝鮮の立場は人質を取った側の論理で、相手の弱みにつけ込んで身代金を要求するのは当たり前と考えている。一方、韓国側も人質を取られた側の弱みで、身代金を払う(コメや肥料の支援事業など)のは当たり前との考え方のようだ。これはまさに犯人側の人質の論理である。

  これに対し、日本は人質奪還の論理だ。日本と韓国の政府の立場は人質奪還闘争を展開するか、しないかの腹のくくり方の違いのように思える。かつて、日本も犯人側の人質の論理にすっぽりはまっていた時期が長らく続いた。「こちらが帰せと騒げば、(北で人質となっている)家族が殺される。それだったら穏便に日本政府としてコメでも援助して、肉親と会えるチャンスをつくってあげよう。それが人道というものだ」との考えだ。その論理で、寺越武志さんと家族の再会が演出された。おそらく森喜朗前総理まではこの発想だったろう。

 ⇒20日(木)夜・金沢の天気   あめ

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