自在コラム

⇒ 日常での観察や大学キャンパスでの見聞、環境や時事問題、メディアとネットの考察などを紹介する宇野文夫のコラム

☆続々・ブログと選挙

2005年09月25日 | ⇒メディア時評
  日本の国政選挙のあり方が大きく変わるかもしれない。これまで禁止されてきた選挙運動でのインターネット利用が解禁される見通しとなったからだ。

  公職選挙法(以下「公選法」)では、選挙運動のために使用する文書図画は、はがきやビラのほかは頒布することができないとの規定(142条)がある。パソコンのディスプレイで画面表示されたテキストや画像も文書図画に相当すると解釈されていて、候補者が個人のホームページで投票を呼びかけると違法な媒体を使った選挙運動とみなされる。だから、公示・告示以降はホームページやブログを更新して内容を書き換えることは事実上できない。これは候補者だけでなく、一個人であったとしても「候補者を推薦し、支持し若しくは反対する者の名を表示する文書図画を頒布し又は掲示することができない」(146条)。これに違反した場合、「2年以下の禁錮また50万円以下の罰金」(248条)である。

  アドバルーンを揚げたりネオンサインで投票を呼びかけたりする外国の選挙と比べ、かくのごとく地味で細やかな公選法の規定ができ上がった背景には、かつて「金のある者が勝つ」という状況が日本の選挙あったからで、選挙の公正を国会議員自らが追求した結果なのだ。ところが、インターネットの特性である低コストとボーダレスという2点で風穴が開いた。

  一つは、たとえば衆院選の小選挙区の立候補者が頒布できる通常はがきは3万5千枚、ビラ7万枚に制限されている。大量にビラをまける候補者が有利にならないよう、競争条件を等しくするための措置である。はがきもビラも使わない、安上がりの文書図画と言えばインターネットのブログだろう。なにしろサイトを構築する経費がかからない。コストのかからない選挙を目指すのであればインターネットを併用する方がいいのである。特に金も地縁も血縁もない新人候補が名前や政策を知ってもらうのにインターネットを利用しない手はない。

  二つ目の風穴は絶妙なタイミングで開いた。総選挙投票の3日後、9月14日に最高裁が判断した「在外選挙権訴訟」の違憲判決である。在外邦人の投票は、衆参両院の比例代表に限って認められていたが、選挙区についは、候補者が在外邦人にまで政策などの情報を伝えることは「極めて困難」などの理由で認められなかった。このため、イラク復興支援のためにサマワに派遣されている陸上自衛隊員600人も投票ができなかったくらいだ。今回の判決で最高裁は「通信手段の発達で候補者個人の情報を在外邦人に伝えることが著しく困難とは言えない」と指摘した。つまり、インターネットを使えば海外であろうと情報は届くと判断したのである。在外有権者はざっと72万人だ。

  この判決で、インターネットの選挙利用について自民党や総務省が動き出した。自民党のメディア戦略を担当している世耕弘成広報本部長代理(参議員)のブログ「世耕日記」の9月20日付によると「…総務省滝本選挙課長が来訪。選挙におけるネット利用に向けた公選法のあり方に関して基本的な部分について意見交換。最高裁判決が出た在外投票の問題や電子投票のあり方についても議論。」とある。判決を受けて、総務省の選挙担当課長が世耕氏のもとに根回しにやってきたのである。うがった見方をすれば、在外投票を電子投票にする構想なども話し合われたことは想像に難くない。

   自民党は、すでに最高裁判決前の9月9日の党選挙制度調査会で「選挙におけるインタ-ネット利用に関する小委員会」(仮称)の設置を決めている。また、民主党も以前からインターネットの選挙利用解禁に積極的であり、早ければ来年の通常国会にも公選法改正案が議員立法で提出されるだろう。「マニフェスト選挙」、「小泉劇場選挙」、そして2007年夏の参院選は「ネット選挙」あるいは「ブログ選挙」がキーワードとなるに違いない。

⇒25日(日)夕・金沢の天気   くもり
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