自在コラム

⇒ 日常での観察や大学キャンパスでの見聞、環境や時事問題、メディアとネットの考察などを紹介する宇野文夫のコラム

★またも「ニュースの天才」

2005年05月26日 | ⇒メディア時評
 アメリカ誌ニューズウィークのワシントン支局長がCNNに出演し、イスラム教の聖典コーランを米軍の尋問官がトイレに捨て冒涜(ぼうとく)したとの同誌5月9日号の記事について「誤りがあった」と述べ、異例のテレビ会見となった。何しろ、コーラン冒涜のニュースでアフガニスタンやインドネシアではイスラム教徒による反米デモが沸き起こり16人もの死者が出た。ニューズウィークが内外から責任を問われるのは必至だろう。

   ことし2月にアメリカ映画「ニュースの天才」を鑑賞した。かいつまんで内容を紹介すると、大統領専用機内に唯一設置されている米国で最も権威のあるニュース雑誌の若干24歳のスティーブン・グラス(ヘイデン・クリステンセン=写真=)が政財界のゴシップなど数々のスクープをものにし、スター記者として成長していく。グラスの態度は謙虚で控えめ、そして上司や同僚への気配りを忘れない人柄から、編集部での信頼も厚かった。しかし、ある時、グラスの「ハッカー天国」というスクープ記事に、他誌から捏造疑惑が浮かび上がり、グラスの捏造記事が発覚していくというストーリーだ。実話をもとに制作された映画でもある。
 
   今回の「コーラン冒涜」記事も、アフガン旧政権タリバンの関係者らが拘束されているキューバのグアンタナモ米海軍基地での虐待問題を取材したニューズウィークの記者がアメリカ政府高官からコーラン冒涜の匿名情報を入手。基地を管轄する南方軍の報道官はコメントを拒否したが、「国防総省の高官は否定しなかったため記事にした」(ニューズウィーク誌支局長)との説明だったが、結果的に記事に誤りがあると認めた。匿名情報を否定しないからとの理由でニュースにした記者も「ニュースの天才」だったに違いない。

   日本にも「やらせ」や捏造の記事は過去にもあった。しかし、アメリカのジャーナリズムは日本より、ある意味で「ニュースの天才」を生みやすい。日本のように記者クラブで取り決めた横並び取材は好まず、「一匹オオカミ」のような取材手法だ。また、日本の新聞社の場合、先輩、キャップ、デスク、部長のチェック機能があるものの、アメリカでは記者とデスク、編集長らが直接話し合って紙面構成の話し合いをするため、その場の雰囲気、たとえば記者が面白く説明すると「それはいい」と盛り上がってしまい、その場で紙面化が決まってしまうのではないか。映画「ニュースの天才」でもそのような場面が何度か強調されていた。

   しかし、米軍によるイラン人捕虜虐待事件などのスクープがどんどんと出てくるのがアメリカのジャーナリズの凄いところ。日本のような横並び取材がよいと言っているのでは決してない。

⇒26日(水)午前・金沢の天気 晴れ
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