デラシネ日誌

私の本業の仕事ぶりと、日々感じたことをデイリーで紹介します。
毎日に近いかたちで更新をしていくつもりです。

新芸とその時代-昭和のクラシックシーンはいかにして生まれたか

2020-02-09 19:39:16 | 買った本・読んだ本
書名 「新芸とその時代-昭和のクラシックシーンはいかにして生まれたか」
著者 野宮珠里 出版社 人文書院 出版年 2019

新芸こと「新芸術家協会」とその社長西岡芳和の足跡を丹念な取材と調査で追った力作ルポルタージュである。私が追いかけた神彰とアートフレンドが倒産したあと、ソ連のクラシック音楽を一手に読んでいた呼び屋で、本物の音楽に飢えていた日本のクラシックファンに一流の音楽を提供していた新芸のことは、いまは梶本音楽事務所やジャパンアーツ、日本舞台芸術振興財団などの影で忘れられているが、1960年代から80年にかけての最大大手の呼び屋であったことは間違いない。このルポが目指したものは、まず新芸が昭和の音楽シーンで大きな役割を果たしたことを評価すること、西岡芳和という男が音楽に賭けた夢を追うこと、そしてなぜこれだけの会社が倒産したのか、当時言われたように相場への投資の失敗だけなのか、実は当時の世界情勢のなかでのソ連の立ち位置と、文化政策の方針のあおりを得たためではないかということにあったのではないかと思う。時間をかけて丹念に関係者を取材することにより、新芸が果たした大きな役割について明らかにしたことで、昭和の音楽史の空白を埋めることになった、その意義は大きいのではないだろうか。西岡氏についてはこれもほとんど語られることがなかった。この書が貴重なのは、西岡氏に実際会ってインタビューをしていることである。それによって彼が単なる呼び屋ではなく、鑑賞運動を広げるかたちで招聘をはじめた、音楽愛に支えられたことが浮き彫りにされた。確かにオペラやオケでこけると、大変な損害を蒙ることになるが、同じ業界を生きた神彰やほかのインペリサリオに比べると、打たれ弱いところがあるのは、興業師ではなかったということにもあるのではないか。倒産の原因についてだが、当時のソ連と日本という関係のなかで、不運なくじをひかされたということはあったと思うが、やはり彼が相場に手をだしたことが一番大きい原因だったように思える。それへの突っ込みがちょっと甘かったのではないかという気はした。関係者の証言を集めるなかで、オペラの引っ越し公演の舞台関係の裏話や、亡命者が出たところで、まったく目立たなかったソ連側のスタッフが突然指揮をとり始めるとかの舞台裏のエピソードが随所に取り入られていることで、時代が浮かび上がってくのも魅力のひとつとなっている。さらに半谷史郎という当時の日ソ文化政策研究の第一人者の協力を得ることによって、ソ連側からの資料で日本のプロモーターへの評価も背景としておさえることになったのも読みごたえあるものにした。
ひとつ気になるのは神彰と西岡の接点はあったのだろうかということである。実はこの件で取材を受けたが、神や関係者の中でそのような話はまったくでなかった。同じ北海道出身ではあっても、神の場合は函館への思いはあっても、北海道だからといって同郷という意識はなかったと思う。あるとすれば西岡が神に近寄っていったというところだろう。
神彰、長谷川濬、西岡芳和と北海道出身のインペリサリオの評伝がでたので、次はやはり本間興業の本間誠一ということになるだろうな、彼についてのソ連側の評価はどんなだったのかとか、それこそ倒産の理由、歌舞伎公演について、ボリショイサーカスとか一冊の本になるだけのものは持っているはずだ。
コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 浜空掃除 | トップ | 「パラサイト」アカデミー賞... »

コメントを投稿

買った本・読んだ本」カテゴリの最新記事

カレンダー

2024年7月
1 2 3 4 5 6
7 8 9 10 11 12 13
14 15 16 17 18 19 20
21 22 23 24 25 26 27
28 29 30 31

バックナンバー