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山本茂実『哲學随想録 生きぬく悩み』

2018-10-27 | 松沢裕作『生きづらい明治社会』
投稿者:鈴木小太郎 投稿日:2018年10月27日(土)10時00分30秒

暫く探していた山本茂実の最初の著書『哲學随想録 生きぬく悩み』(但し第二版、葦会、1950)を入手し、パラパラ眺めてみました。
同書の冒頭は「教へ子達の住む街」と題する一葉のモノクロ写真で、松本の街並みの背後に常念岳などの北アルプスの山々が聳えています。
その裏の「著者近影」を見ると、山本は詰襟の学生服を着て、頭には早稲田大学の徽章が輝く角帽を被っています。
ついで、「◎ 本書を謹んで 郷里、信濃の教え子達に捧ぐ!」との巻頭言の後、目次となり、

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足跡─序にかえて
一、必然について
 悔ゆる余地なき過去/五重塔/人間の確信/寂しい旅人/たんぽゝ抄
 羨ましい人々/騙されない人生/意識的な人生
二、永遠について
 それ以前のもの/文化国家の前提条件/永遠に生きるもの/終戦
 純真さを引出すもの/温存をなすもの
三、郷愁について
 信濃のお盆/水草と浮草/牛蒡掘り
四、人間について
 孤独者/思惟と運命について/邪を憎む心/断崖の幼児/神と象徴について
五、死について
 時代とその表現/職人と芸術家について/晩秋の入道雲/死について
〇屑籠
 懐疑のノートより
 最近のノートより
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とあります。
更に、

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人間は真剣に生き抜かんと努力して居る間は
必ず迷うふにきまつたものさ、悩むものだよ…………。
然し、悩む限り、迷ふ限り
必ず救はれるものさ…………。
        ゲーテ「ファースト」より
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という頁となり、その裏には、

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著者略歴(初版発刊当時)
長野県松本市並柳に生る。
父亡き貧農の長男として、小学校卒業と共に松本青年学校夜学部に通いながら、自家の農業経営に当り、一家の復興に努むる事七年。引続き長い軍隊生活と、数年に余る闘病生活(陸軍傷痍軍人療養所生活)の後、自ら進んで松本青年学校教師となり、勤労青年の教育に勤む。傍、雑誌「たんぽゝ」を発刊す。終戦後は郷土の連合青年団長となり、又、周囲の激しい圧迫と闘いながら男女多数と共に私立神田塾を主宰す。
その間、新聞、雑誌その他に発表せる戯曲、小説、論文等多数あり。
現在、早稲田大学文学部哲学科に在籍す。雑誌「葦」編集長。「湖畔詩人」同人。
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と記されています。
早稲田の角帽を被った「著者近影」があって、「早稲田大学文学部哲学科に在籍す」と書かれていれば、読者の誰もが著者を早稲田大学の学生だと思うでしょうが、実際には当時(初版「早稲田広文堂」、昭和22年)の山本は単なる聴講生ですね。
一応の面接はあっても入学試験はなく、単位の取得は出来ず、卒業論文を書く義務もなければ権利もない存在です。
さて、同書の奥付の更に後ろには、どこかの川辺に生えた葦の写真付の、

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葦─人生記録雑誌─
主幹 山本茂実
隔月刊(年約七回発行)
定価四十五円(〒無料)
葦会発行
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という見開き広告があって、

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 葦の人々
「誰も知らないこんな所にも、こんなにも真剣に生きぬかんとして居る人が居るんだ」
"葦"はそんな人たちの作つた雑誌だ。
然かもそれが特殊な一部の才能家ではなくて飽く迄普通の、ありふれた、吾々と同じ様な貧しい才能と働かなくては喰えない境遇の人達ばかりによつてつくられた雑誌なんだ。
才能、センス、そういうものはないかも知れないが、それでも又良いではないか。その真剣な態度さえあつて、お互が救け合つて居つたら、必ずや何とか道は開けて行く事だけを信じておるのだ。
唯吾々はより良き生を生きぬかんとして居るのだ。
或るものは工場の片すみに、又或るものは学校に、農村に、唯それだけだ。
こうした埋もれた、しかも恵まれない人達が皆でこの"葦"を通じて結ばれよう。そんな所にこの雑誌の使命はある筈だ。誰かの云う様にそれが確かに小さい弱い力であつたにしてもそれを何人があなどる事が出来るであろうか?
吾々はしつかりスクラムを組もうではないか。
真剣に生きぬこうとする人達と共に。
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という文章の下に、

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「葦」原稿募集
人生記録 手記 戦記 日記 感想文 論文 小説 随筆
詩 短歌 俳句 表紙写真 カット

枚数〆切には制限ありませんから、埋もれた作品を
どしどし応募して下さい。原稿は原稿用紙に清書して
お送りください。 葦編集部
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とあります。
これによって「葦」がどのような読者層に支えられていたのかが伺えますね。
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