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「公定力があるわけですから」(by 阪田雅裕氏)

2016-09-08 | 天皇生前退位

投稿者:鈴木小太郎 投稿日:2016年 9月 8日(木)11時08分49秒

私は集団的自衛権の基本的な考え方について阪田雅裕氏とは相容れない立場なので、『「法の番人」内閣法制局の矜持─解釈改憲が許されない理由』(大月書店、2014)に賛同できる部分は少ないのですが、それでも内閣法制局という特殊な世界の内情を知ることができる文献の中では良質な本ですね。
ただ、去年四月に読んだときに変に思った部分が二箇所あり、うち一箇所はたぶん川口創弁護士も気づいていてやんわりと聞き直しているのですが、もう一箇所の単純なミスは編集関係者を含め誰も気づかなかったようですね。
p50の川口弁護士の質問への回答の部分(p51)です。

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──最高裁が最終的に有権解釈権をもっているとしても、すべての事情について最高裁に意見を求めるわけにはいかないですし、裁判事例となるケースは稀です。しかも、政治的な問題になるようなケースでは往々にして統治行為論ということで最高裁が判断を避ける。そうであればこそ、日々の行政の執行が憲法の枠内で適切に行われているかどうかをチェックし担保する内閣法制局の役割が、立憲主義を機能させていくために必要だということですね。

阪田 非常に大事だと思いますね。いろいろ制約があって、裁判所が判断する場面というのは限られる。これは仕方がないと思います。統治行為論というのも批判的に語られることが多いのですが、私はやはり民主的基盤が異なるということから、憲法判断に禁欲的であるということはもっともだと思っていますし、抽象的な違憲立法審査権をもたない以上、個別具体的な事件を離れて抽象的な法令の合憲性の判断はできない。また、法令には当然、合憲の推定が働いているわけですね。公定力があるわけですから。そして事後的にしか審査できませんから、判決が出るころには時間が経っていて、いろいろな社会的事実が積み重ねられている。そういうなかで、ちょっとくさいなと思ったからといって違憲と判断した途端に起こる、さまざまの混乱に思いを致すというのは、当然あるだろうと思います。
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「法令には当然、合憲の推定が働いているわけですね。公定力があるわけですから」とありますが、「公定力」は「行政行為」の効力であって、法令の合憲性の推定とは全然関係ないですね。
これは行政法の基礎の基礎です。
私はこの部分を読んだとき、目が点になったのですが、さすがに元内閣法制局長官の発言だから、もしかしたら自分の勘違いかも、と不安になって、田中二郎先生の古典的な教科書を始め、十数種の行政法の教科書を見てみました。
「公定力」についての学説は私が大学で行政法を学んだ頃とはずいぶん様変わりし、藤田宙靖氏の教科書あたりでは十数ページの詳細な解説があるものの、最近の教科書ではほんの数行で済ませるようなものもあって、私も綾小路きみまろ的な感懐を覚えたのですが、それでも法令の合憲性の推定と公定力を結びつけたものはひとつもありませんでした。
ということで、「公定力があるわけですから」は、元内閣法制局長官にしてはずいぶんお粗末な阪田氏の勘違いですね。

ちなみに、公定力という概念は学問的には若干の問題があるにしろ、素人を説得する際には便利だな、と思ったことがあります。

除名決議について
https://blog.goo.ne.jp/daikanjin/e/be1234b96a2892533f99ee68d34b0255

>筆綾丸さん
>「法学部図書館に寄贈されていた上杉慎吉の蔵書は雲散霧消した」とありますが、誰かが処分したということでしょうか。

今野論文には豊富な注記があるのですが、この点については特に説明はないですね。
ただ、戦後のドサクサの際に、上杉慎吉を嫌った誰かが勝手に処分したということは充分あり得ると思います。

※筆綾丸さんの下記投稿へのレスです。

焚書坑儒? 2016/09/07(水) 19:55:59
小太郎さん
ご引用の中に、「法学部図書館に寄贈されていた上杉慎吉の蔵書は雲散霧消した」とありますが、誰かが処分したということでしょうか。蔵書に罪はないはずなんですが、一種の焚書坑儒ですね。

http://www3.nhk.or.jp/news/html/20160907/k10010674071000.html
NHKの「生前退位の意向」報道が新聞協会賞に選ばれたそうですが、そんなことより、なぜ「スクープ」できたのか(宮内庁とNHKの conspiracy ?)、まず背景を明らかにすべきですね。数十年後の「平成天皇実録」に書かれるから、それまで暫く待て、ということか。

キラーカーンさん
http://style.nikkei.com/article/DGXMZO06751960R00C16A9970M00?channel=DF280120166618
昨日は王座戦第一局を見ていたのですが、挑戦者の糸谷八段は強いのか、弱いのか、よくわからなくなりました。私は彼をひそかに「ドラえもん」と名付けているのですが、なぜ、あんな出来の悪い将棋を指してしまうのでしょうね。
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