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考えぬかれた「机上の空論」─「窮極の旅」を読む(その34)

2015-09-17 | 石川健治「7月クーデター説」の論理

投稿者:鈴木小太郎 投稿日:2015年 9月17日(木)09時03分46秒

石川氏の見解の検討は後にして、第七章の残りの部分の紹介をしておきます。(p33)

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 通常であれば、「後法は前法を改廃する(lex posterior derogat priori)」という原理(後法優位の原理)が働くので、新しい閣議決定が直ちに約束法になりそうである。しかし、「今後とも集団的自衛権の行使を禁ず」という類の約束法は、普通の政府見解よりも上位規範であるため、そこには、同位の法規範を対象とする後法優位の原理は働かない。閣議決定で当然に約束─法規範を変更できる、ということにはならないのである。それにもかかわらず改正を強行すれば、上位規範を下位規範によって倒したわけであり、それは法の破砕におかならない。
 このように、集団的自衛権の行使容認に踏み切った二〇一四年七月一日の閣議決定で、安倍内閣が何を行おうとしたのかを、清宮の「違法の後法」論文は明らかにしているのである。この観点を、「普通の憲法規範」と「憲法改正規範」の関係に置き換えれば、二〇一三年五月をピークとする憲法九六条改正論議にそのままあてはまることを、慧眼の読者は見逃さないであろう。この点についても、基本的なことは、すでに「違法の後法」のなかに書かれている。いまからちょうど八〇年前の論文ではあるが、その射程距離の長さには恐れ入るほかない。考えぬかれた「机上の空論」こそが、目先の実益を追う解釈法学では及びもつかない問題解明力をもっていることを、それは教えてくれる。
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第七章はこのように清宮の「違法の後法」への熱烈なる賛美で終わってしまいます。
石川氏によれば、「違法の後法」はまるで聖徳太子の「未来記」のような、あるいは「ノストラダムスの大予言」のような「射程距離の長さ」を持ち、「目先の実益を追う解釈法学では及びもつかない問題解明力」を発揮する偉大な論文のようですね。
ま、「7月クーデター説」の緻密な論証を期待した者にとっては、ちょっとあっけない感じのする終わり方です。

コメント
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