台風で荒れた庭の芝生を刈る。
いつ植えたものだろうか、白い小菊がとても美しい。
確か菊あるいはクリサンセマムという題名のスタインベック?の掌編小説をふと思い出す。
放浪に疲れた男が立ち止まって、生垣越しに庭で菊の手入れしている女に見とれている。
男に気付いた女は男に向かって菊が好きなの?男はああ、と。詳しい男女の会話は忘却した。
女は生垣越しにホースの水を男に飲ませる。手で口を拭きながら、なんと言っても故郷の水はうまい、
と言って立ち去ろうとする男に女は菊の苗を手渡す。礼を言って菊の苗を持って男は立ち去る。
数日後、女は男の立ち去った小道に投げ捨てられ、枯れた菊の苗を発見し、呆然とする。
四、五十年前に読んだ掌編、スタインベックの他の掌編がごちゃまぜになっているかもしれない。
だが、たったこれだけの内容の掌編にもかかわらず、傷つけられた女の心情を想像し、
親切を平然と踏みにじる男の残忍な行為を何故か忘れることができないでいる。