Mr.コンティのRising JAPAN

マスコミの書かない&書きそうもない!スポーツ界の雑学・裏話を、サッカーを中心にコメントを掲載していきます。

EURO2008 決勝戦は夢の世界…….

2008-07-16 | EURO Football

無敵艦隊…….1998年ワールドカップフランス大会からスペイン代表チームの通称として用いられてきているらしい。私が初めてこの言葉を耳にしたのは高校生の世界史の授業だった。1588年大英帝国艦隊はアルマダの海戦で当時“無敵艦隊”と呼ばれていたスペイン艦隊を撃破し制海権は大英帝国に奪われそれがスペイン衰退の予兆となった…..と受験世代の私は習ったと記憶していた。 
それではフェリペ二世により英国征服に出征したスペイン艦隊はそれまで無敵だったのだろうか?? そもそもこの無敵艦隊とはスペイン語Armada Invencibleの訳。
この名称は、この艦隊を壊滅させたイングランド人が、皮肉をこめて考案した通称で、本国スペインにおいては、「最高の祝福を受けた大いなる艦隊(Grande y Felicísima Armada)」と呼ばれていた。中立な視点からは、英語の文脈ではSpanish Armada、the Armadaなどと呼ぶとの事。それまで何度も敵を撃破した艦隊ではなく、英国征伐の為に出征し敗戦を喫した艦隊で“無敵”とは言い難い艦隊だった。従ってスペイン人または現役、歴代のスペイン代表選手達が“無敵艦隊”と呼ばれる事を好むのだろうか?? 残念ながらスペイン語は専門外で日本語をよく理解するスペイン人にまだであった事が無いのでそこら辺を訊いたことがまだない。いつか訊きたいと思っているのであるが……..

EURO2008 を制したスペイン代表。44年ぶりメジャータイトル獲得の道程は長かったと思う。生まれて初めてその喜びを実感した人達も少なくなかっただろう。1966年ワールドカップイングランド大会に出場以来2大会連続で欧州予選で敗れようやく出場を果たした1978年ワールドカップアルゼンチン大会では1次リーグ落ち。地元開催の翌スペイン大会ではユーゴスラビア戦の“ホームタウンテジョン”の疑惑の判定に助けられ2次リーグ進出がやっと。2年後の欧州選手権では決勝に進出するも将軍プラティニの直接FKをGK名手アルコナーダが後逸し準優勝に終わると以降不運な判定に泣くこともあったが欧州選手権、ワールドカップでは Semi Final にさえ進出出来なかった。

6月29日オーストリアの首都ウィーンの Ernst Happel Stadion 。本当に偶然にも幸運にも入手できたチケットを持って競技場内に入り眼前に広がる光景を私はまだ信じることが出来なかった。試合開始までまだ30分以上はあったが右側からはスペインサポーター達の大歓声が大波の様に押し寄せ。反対側のゴール裏には白一色(に見えた)ドイツサポーター達の歓声が聞こえる。それはある意味羨ましい風景でもあった。 欧州選手権は日本人の私にとっては“関係の無い”大会。それだけに勝敗に左右されず試合結果を楽しめる大会ではあるがしかし日本代表が出てこられる可能性は絶対に無いのだ。 Asian Cup がこれだけ盛り上がれば良いのだが…..欧州選手権が開催される度に私が思うことだった。

  

スペイン、ドイツの両選手がピッチに現れ大歓声の中彼らがアップを始める。スペインの Villa は見当たらなかったがドイツの Ballack はスタメン候補メンバーと共に同じメニューのアップをしている。どうやらスタメンで出てきそうだ。そしてスペインからアナウンサーが選手の名前を言うとサポーターが名字を叫ぶお馴染みのスタメン発表が始まる。ドイツ代表のスタメン発表は覚えのある声だったので本国ドイツから著名なアナウンサーを連れて来たのかもしれない。そしてそれはスペインも同じことだったのかも知れない。
そして決勝戦に先立って“セレモニー”が始まる。その見事な演出に見とれていると入場を控えた両チームの選手達がスクリーンに映し出され、いよいよキックオフの時間が近づく。またも大歓声が沸き起こり選手達が入場し、国歌演奏の後に選手達がピッチに散り、イタリア人の Robert Rosetti主審 のホイッスルでスペインのキックオフで“夢の試合”が始まった。

   

試合は立ち上がりから劣性が予想されていたドイツがサポーター達の歓声に後押しされる様にスペインゴールに迫って来る。怪我が心配された Ballack も前線に積極的に絡んでくる。今のスペインを相手にするには Ballack 抜きでは厳しいと思った。
3分には Ramos から Puyol のパスをカットした Klose がそのままスペインゴールに迫るがシュートには至らない。5分には Ballack, Lahn, Podolsky と繋がったボールが再び左サイドを上がった Lahn に渡りバウンドを利用して Ramos を交わして,8分には Ballack が左サイドを Puyol を外してそれぞれクロスを送るがシュートは引き出せなかった。立ち上がりからスペインの右サイドを突いたのは意図的だったか?9分には Lahn が左サイドを突破し入れたクロスを今度は Hitzlsperger が合わせてシュートを放つがこれは GK Casillas の正面。12分には Klose が Marchena と空中戦を競りながらCKを得るなど、スペインサポーターの陣取る私の座っていた方にドイツが攻め込む時間が続く。ドイツはDFラインを高い位置に置き、CKのチャンスには9人の選手をPA内、付近に集めて先取点を伺う。試合を面白くするためにはドイツが先制する方が面白いと思った。しかし13分過ぎからスペインが得意のワンタッチ、ツータッチで回すパスが繋がりだしボールキープ時間が徐々に長くなる。20分には Torres がMetzelder に倒されて得たFKを Xavi Hernandez が入れると再び Torres が Metzelder と競りながらもヘッドを放つがわずかにクロスバーを越える。23分には右サイドを Cesc Fabregas が突破し後方の Ramos に戻すと Ramos が Far Side に送ったクロスを Torres が Metzelder と競りながら放ったヘッドはポストを直撃。そのこぼれ球を繋いで Joan Capdevila が撃つがポストの右に外れていった。スペインサポーター席から一斉に溜息が洩れる…… 立ち上がりから自分のサイドを切り裂かれ続けた Ramos が少しは溜飲を下げたか……..
16分過ぎから Ballack が中盤以降に下がってSchweinschteiger が左サイドにも出て来る様になった。 Ballack でないとスペインMF陣には対抗出来ないか?? そしてそれでも25分のCKの Podolski が右サイドを突破して得たCKのチャンスには上がってきて豪快なボレーを放ったがそれは Ramos にブロックされた。26分には左サイドをワンツーで抜け出た Capdevila がFriedrich のタックルより早くセンタリングを入れるがここはGK Lehman がキャッチ。 29分には Ballack が Cesc に、その直後には Ramos が Podolski に激しくあたりファールを受ける。いよいよ試合がタフになったなと思った30分、この試合を左右したシーンが。スペインゴール前に送られたドイツからのパスをカットしようとした Capdevila がトラップして浮かせたボールが右手に当たったのだ。それは観客席からもはっきり見られ、隣に座っていたドイツ人が立ち上がって“ハント!ハント( Hand ) !!” と言って立ち上がる。 Capdevila の真正面にいた Schweinsteiger も主審にアピールするがPKは与えられなかった。この判定は後にドイツ人の間で物議を醸すだろう……
そしてその3分後、先制点がスペインに生まれる。 センターサークルの後方からMarcos Senna からXavi への縦パスが通り、そこから更にスルーパスが Torres に通る。一旦は Lahn が Torresの前に体を入れるが Torres が右から Lahn の前に割って入りまた Lehman の動きもよく見ながらワンタッチの見事なボールコントロールでドイツゴールに流し込んだ。 Torres は1次リーグではスウェーデン戦でゴールを挙げて以来の決勝トーナメント初ゴールだった。スクリーンにはJuan Carlos スペイン国王、Sofia 王妃の喜びの表情が映し出される。

  


均衡を破ったのはドイツで無くスペイン。ドイツはこの劣勢をどう挽回するのか、また挽回できるのか…. 周囲のスペイン人サポーター達の手拍子は鳴りやまない。その中で左サイドからPA内に切れ込んだ Iniesta が逆サイドに送り右から中にから切れ込んだ David Silva がボレーで撃つがこれはゴール枠を大きく外れる。得点後のこう言ったチャンスは往々にして決まらないものと自分は思っているので Silva が切れ込んでも”こりゃ入らんな。“と思ってみていたが周囲のスペインサポーター達は顔を覆って悔しがっている。その直後に今度はドイツ人サポーター達の顔が引きつるシーンが。 Ballack が右目上から血を流し、ピッチ外に出て行く羽目に。スクリーンのリプレイで Marcos Senna との競り合いで負傷したらしい。3分ほどしてピッチに戻ってくるが出血は止まらず、主審から再治療を指示されまたもサイドラインへ。 この劣勢の中で Ballack が下がってしまえばドイツはかなり苦しくなる。
1982年ワールドカップスペイン大会の決勝戦。下馬評はアルゼンチン、ブラジルを連破したイタリアが有利。エース、Karl Heinz Rummenigge が負傷を押してのスタメン起用だった西ドイツを当時中継していたNHKの解説岡野俊一郎氏は “ドイツ勝つ為には絶対に先制点が欲しいですね。”と試合開始直前に言ったことをここで思い出した。結局 Rossi, Tardelli, Altobeli にゴールを決められエース Rummenigge も途中でベンチに下がった西ドイツは Breitner のゴールで一矢報いたに留まった。しかし Ballack は40分過ぎになんとかピッチに戻ることが許され前半も追加点を許さずに終えられた。スペインサポーター達からは大歓声が、ドイツ人サポーターはやや安堵の表情を浮かべる。

後半に入りドイツベンチは左サイドバックの Lahn に替えて 191cm の長身DF Marcell Jansen を入れてきた。中盤を省略してロングボールを多用する作戦か?それを匂わすように立ち上がりはワントップの Klose にボールを放り込んでくる。
しかしスペインDF陣の統率は良く、こぼれ球をドイツは拾えない。スペインの自軍ゴール前でボールを回されピンチの連続だ。53分には Fabregas が真中から右の Torres に送り、戻し気味にセンタリングを入れ走りこんだ Xavi Hernandez が放ったショットは Lehman を破るがファーポストの右側に外れて行く。54分にはCKからファーサイドの Silvia が狙い澄ましてまたもファーポスト側にシュートを放つがわずかに外れる。しかしその前に Ramos がシュートコースに入っており右足でコースを変えそこねたのが得点に繋がらなかった。スペインサポーターからはオーっと歓声が洩れる。

   

55分には中盤からXavi Hernadez のスルーパスに反応した Torres が Mertesacker と競り合いながらもスライディングシュートを放つがここは Lehman の飛び出しが良くブロック。それにしてもこの試合の Xavi Hernadez は本当に冴えわたっていた。
58分にドイツはHitzlsperger を下げて 190cm のMF Kevin Kuranya を入れる。そして Ballack の位置をボランチ近くまで下げる。スペインの中盤からボールを奪い、正確なロングボールを前線と言うことだろうが、スペインの華麗なパス回しにドイツは後手を踏むばかり。それでも60分には途中出場の Jansen が左サイドで頑張りボールをキープ。入れたクロスを Schweinsteiger が戻し走りこんだ Ballack が強烈なショットを放つがポストの左に外れて行く。メルケル首相の惜しがっていた表情がアップになるが後半ドイツサポーター達がシュートシーンで沸いたのはこれが最後であった。

スペインベンチは63分に Cecs Fabregas に替えて Xavi Alagones を投入する。ずいぶん早い交代だなぁ…と思った。これも決勝戦だからか??65分に Podolski と Silva が口論し Silva が軽く頭突きをかます。 Ballack と Schweinsteiger が激しく主審に詰め寄るとスペインベンチから控えの選手達が飛び出してきて何やら叫びだす。この動きに今大会のスペインの強さを見たような気がした。 
そしてAragones 監督はその Silva を下げて Santi Cazorla を入れる。う~ん、実に冷静な選手交代だ。そしてここからスペインの猛攻が繰り広げられる。67分 FK に Ramos が飛び込みフリーでヘッドを放つが至近距離からのシュートは Lehman がブロック。その後のCKからのチャンスは Iniesta のシュートがゴール枠をとらえるが Frings の足に当たり再びCKへ。そのCKからも最後は Cazorla からボールを受けた Iniesta のシュートは Lehman の正面に。 ちょっとドイツ選手の足が止まって来た感じは否めなかった。

ドイツサポーター達はフラストレーションを募らせたか、選手たちを鼓舞する為か73分にはドイツ国歌を合唱し始めた。するとスペインサポーター達から口笛のブーイングが。1937年のゲルニカの遺恨か?それとも(後で知った)歌詞のないスペイン国歌へのあてつけととったのか?  78分に Toress が下がり Daniel Güiza が投入される。Güiza とて FW 選手で今大会は2得点を挙げている。決して守備固めという訳ではないしそういう時間帯でも無い。しかし Toress は納得の表情でベンチに下がる。サポーター達の陣取るスペインゴールになかなかボールを運べないドイツは79分に Klose を下げて 189cm の Mario Gomez を入れる。3人の交代選手は全て長身の選手。だがそこにボールは送られない。それでも残り時間、ドイツなら何とかする、かならず追い付いて同点にし延長戦に入りより長く試合が見られる。そう期待するもゴールを感じさせるのはスペインばかり。あぁこれで EURO2008 が終わるのか........ と思った時に主審の長いホイッスルが鳴り響きついに決勝戦が終わってしまった。 スペイン、ドイツ、それぞれの選手、サポーター達は対照的な表情だ。

  

  

私は自分が中立の立場でよかったと感じた。それでなければ試合は充分に堪能出来なかっただろう......... ドイツがワールドカップ、欧州選手権で 0-1 で敗れたのは 2000年の欧州選手権で England に 0-1 で敗れて以来。あのシアラーのゴールに沈んだ試合以来だった。
試合内容も結局ドイツが放った”枠内シュート”は前半9分 Hitzlsperger のシュート1本のみ。これでよく 0-1 で済んだものだったと言えるだろう。しかし30分の Capdevila のハンドにきちんとPKが与えられていれば........  

しかしそれらを割り引いてもスペインの定規で測ったような華麗なパスワークは素晴らしかった。高い技術によって裏付けられたものだろう。 全勝でタイトルを獲ったのはあのプラティニにフランス以来.....もう24年も経つのか........
だが破れたドイツも決勝トーナメントに入り1トップに戻してからは強さを見せ、人気の高かったポルトガルを一蹴したあたりはさすがだった。ピッチの上ではスペイン選手達のフィエスタが続く。ぼんやりとそれを眺めながら大会のレベルの高さを感じた。出場国がかつての2倍に増えたワールドカップでは1次リーグからこの様にいかない。だが出場国数拡大がなければ日本は連続してワールドカップには出られないジレンマも.........

   

しかし、ただひたすら、ここにいたこの幸福感をいつまでも、いつまでも浸っていたかった。

翌日からの仕事などは忘れて、ずっとこのフィエスタに “参加“し続けていたかった...............