前回の続きです。
亡命計画は実行段階に入り、現金を貴金属に変えて、自宅に戻った二人。
その晩、聡子から、以前、ドラモンドから日本を離れる際にプレゼントされた絹の反物を質に入れて、ドラモンとから機密フィルムを買い戻す資金にしようと聡子が提案。
翌日、市内の質屋に向かう二人。
途中で、尾行されている気配を感じた優作。
『さっき車を降りた時に見かけた男がまた居た。君は見るな』
『えっ』
『つけられているんですね』
『わからない』
『二手に分かれましょう。あなたは質屋へ、私は、ここで、あなたを尾行する者がいないかどうか見張ります』
ここは、スパイの妻的な言動の聡子。
『誰も居ないと分かれば、悪いが、君はタクシーで帰ってくれ』
『はい』と言って二手に分かれ、誰も居ないことが分かったが、聡子はタクシーで帰らず、優作の後を追いかける。
『ああ、よかった』
『先に帰らなかったのか?』
『質屋の外を見張ってたんです。誰も怪しい人はいませんでした。でも・・・ちょっと眼を離した隙に、優作さん、ささっと一人で・・・。ああ、もう・・・』
『ハハ』
『そんなに可笑しいか、ばかばかしいと思うか、だがだがどんなに用心しても、し過ぎると言うことはない』
聡子が優作に抱きつき顔を沈める。
『どうした。気分が悪いか?』
『いいえ、うれしいんです。やっとあなたと生きている気がして、質屋の外で、今、私があなたの目になっていると思ったら、もう・・・うれしくてたまらなくなったんです』
前日に、二手に分かれての亡命計画を聞かされ、泣きながら強く拒否していた聡子の笑顔。男としては、それなりに嬉しい言葉ですが・・・。
甥の文雄を、大望の為の犠牲と冷酷に云ってのけ、官憲に売り飛ばした女でもある聡子、スパイの妻になると云った聡子。嬉しそうに笑顔を見せる聡子、優作は、どう受け止めているのか。
ここで、このシーンは終わります。
次は廃屋で隠していた機密書類とフィルムを持ち帰るシーン。
そこでの、優作の言葉が気に掛かります。
『聡子。君はスパイの妻なんかじゃない。だから隠れて生きる必要はない。僕たちのように考える人間はどこにでもいる。味方はきっと見つかる』
頷く聡子。ここでこのシーンは終わります。
これって、何か、別れの言葉に聞こえます。これから二手に分かれたとしても、二週間後にはサンフランシスコで、二人は落ち合うのに、もしかして・・・・・・。
次は自宅でのシーン。
決行する前日、女中の駒子から、
『どこか・・・遠くへ行かれるんですか?』
『ううん、ちょっとした旅行よ。二週間ほど』
『いつ帰ってこられてもええように準備しときます。気にせず行って来て下さい。二週間でも、三週間でも・・・この戦争が終わるまででも』
『ありがとう』
この女中の駒子ですが、チョイ役のようで、それなりに重要な役回りのような、何か知っているような、知らないような、どこかでストーリーに絡んでくると、そう思っていました。
でも、しかし、それなりの役者をつかって、それなりの芝居をさせたのに、とくに絡んでくる事もなく、単なる、思わせぶりな、引っかけ的演出でした。
寝室のシーン。
『やっぱり、私も駅まで』
『だめだ、君が駅に来ても、僕が港に行ってもいけない。すべて予定どおりに』
『はい』
『いいか、サミュエルという船長に頼んであるけれども、実際はボブという大男がやってくれる。身体の人一倍大きな男が船のそばにいるからすぐ分かる』
『次はいつ会えます?』
『すぐにだ。心配しなくていい』
『きっと、二週間後に』
『ああ。きっと』
そして、二人は抱擁。
このとき、このシーンで、優作の視線に怪しさを感じたのです。前回、この抱擁シーンを、別なシーンで採り上げてしまいました。年寄りの記憶違い。ここで訂正します。兎に角、優作は、それなりに、ずっと怪しいのです。
それにしても、そもそもです。日本の非人道的行為をアメリカで発表し、アメリカを参戦させ、日本を敗北に導く計画、二人でわざわざ手を携えて、危険な密航で実現させるのは、かなり疑問です。やはりそこはドラマ?
密航に協力してくれる、アメリカの船長がいるのならば、彼に機密文書を託す方が現実的だと思います。やはりそこはドラマ。
この次は、いよいよ、決行の日に。
本日は、ここまで。
それでは、また、次回。
よろしく。