鬼平や竹鶴~私のお気に入り~

60代前半のオヤジがお気に入りを書いています。

お気に入りその1334~伊藤計劃②

2017-03-08 12:50:04 | 鬼平・竹鶴以外のお気に入り
今回のお気に入りは、伊藤計劃②です。

伊藤計劃(いとうけいかく、プロジェクト・イトウ)の「ハーモニー」を読みました。

著者は、デビュー作「虐殺器官」の発表からわずか2年後の2009年に、この「ハーモニー」を遺して亡くなっています。
「虐殺器官」のストーリーは衝撃的でしたが、本書のストーリーもまた衝撃的。
そして著者の人生も衝撃的。
きっともっともっと素晴らしい作品を書きたかったでしょうね。

AMAZONの内容紹介を引用します。
=====
21世紀後半、〈大災禍(ザ・メイルストロム)〉と呼ばれる世界的な混乱を経て、人類は大規模な福祉厚生社会を築きあげていた。
医療分子の発達で病気がほぼ放逐され、見せかけの優しさや倫理が横溢する“ユートピア"。
そんな社会に倦んだ3人の少女は餓死することを選択した――それから13年。
死ねなかった少女・霧慧トァンは、世界を襲う大混乱の陰に、ただひとり死んだはすの少女の影を見る――
『虐殺器官』の著者が描く、ユートピアの臨界点。
=====

以下、ネタバレ注意。
もっとも古い作品なので問題ないと思いますが・・・。

虐殺器官の発動により、アメリカで大量虐殺が行われた。
その混乱の中、原爆が盗み出され、世界中で原爆テロが発生した。
世界は政情の混乱と放射能汚染により、暗黒の時代を迎えた。
後に大災禍と呼ばれたその時代に終止符を打ったのは、WatchMeにより一人一人を体内から管理する生府だった。
自分の身体は自分だけのものと考える少女3人は、生府に対し反旗を翻す。

本書の序章、この見事な設定を思い出すだけでゾクゾクします。

「虐殺器官」で描かれた悲惨な世界は、序章に過ぎませんでした。
本書では、「虐殺器官」の世界がその後、想像を超えた恐ろしい世界に変貌してしまう瞬間を見事に描いています。
「虐殺器官」のラストシーンはアメリカでも大量虐殺が行われる、という衝撃的なものでしたが、本書のラストはさらに衝撃なものでした。
見せかけのユートピアに戦いを挑んだ元・少女と、世界の混乱を食い止めようとしたもう一人の元・少女。
彼女たちに決着が付いたその果てにあったのは、人々を脳まで統制する「ユートピア」でした。
大量虐殺は悪魔の所業でしたが、ユートピアはさらなる悪魔の所業です。
すべての人々が自我を持たないことで訪れる平和には、人間性のカケラもありません。
これではいくら健康で長生きしても、死んでいることと変わりがないのです。
よくもまあこういう両極端な状況を考えたものです。

タイプがまったく違いますが、ジェイムズ・ホーガンの「巨人たちの星」シリーズで毎巻毎巻新しい世界を見せてくれた、

あの新鮮な驚きと感動を思い出しました。
プロジェクト・イトウの優れた頭脳なら生み出すことができたであろう、「ユートピア」の延長線上にある新たな世界を堪能したかったなぁ・・・。







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お気に入りその1333~一分間だけ

2017-03-06 12:24:52 | 鬼平・竹鶴以外のお気に入り
今回のお気に入りは、原田マハです。

原田マハの未読在庫から、今回は「一分間だけ」を読みました。

AMAZONの内容紹介を引用します。
=====
ファッション雑誌編集者の藍は、ある日ゴールデンリトリーバーのリラを飼うことになった。
恋人と一緒に育てはじめたものの、仕事が生き甲斐の藍は、日々の忙しさに翻弄され、何を愛し何に愛されているかを次第に見失っていく……。
恋人が去り、残されたリラとの生活に苦痛を感じ始めた頃、リラが癌に侵されてしまう。
愛犬との闘病生活のなかで「本当に大切なもの」に気づきはじめる藍。
働く女性と愛犬のリアル・ラブストーリー。
=====

読んでいる途中で、つい口からこぼれた言葉があります。
「このバカ女!」
主人公の身勝手さは目に余ります。
振り回され、辛い思いをするリラが可哀そうでなりませんでした。
本を地面に叩きつけたくなる衝動に駆られたのは初めてでした。

彼が去り、リラとの辛い別れ、独りぼっちになった彼女は人間として成長しました。
それが本書の唯一の救い。

犬を飼っていた者には辛い作品でした。
犬の寿命は人間のよりもずっと短いため、飼ったことのある人の多くは別れを経験しているでしょう。
我が家もです。
息子や娘が面倒をみていた飼い犬が、末期がんで1か月間の寝たきりの後、亡くなりました。
飼い犬は、共働き夫婦、部活に塾にと忙しい子どもたち、その全員が偶然揃った日を見計らって、みんなに見守られつつ、さよならを告げて旅立ってくれました。
あれからちょうど10年。
今でも妻は別れがつらいので犬を飼いたくないといいます。

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お気に入りその1332~吉田博②

2017-03-03 12:20:51 | 鬼平・竹鶴以外のお気に入り
今回のお気に入りは、吉田博②です。

「吉田博 全木版画集」で作品鑑賞をしています。
女性のヌードは首をかしげたくなるような出来ですが、それ以外はため息が出るほど素晴らしいです。
日本、アジア、アフリカ、ヨーロッパ、アメリカ。
山や海、川の描写が美しいです。
渓流や波を描くことにかけては名人といって良いかもしれません。

日曜美術館で紹介された作品の題名を「吉田博 全木版画集」と照らし合わせて調べました。
刷りを微妙に変えた作品が多いと聞いていたため、同名作品同士をじっくり見比べながら鑑賞することは楽しかったです。
AMAZONのカスタマーレビューで、本書に載っている作品の色彩が、日曜美術館で紹介されていた作品と比べ、鮮やかさで劣るような発言がありましたが、実際に見比べると、逆のイメージを持ちました。

また同じ版を使って、帆船や山などの朝、昼、夕方を刷り分けた作品があり、その見比べも楽しかったです。
ただ色彩を変えているのではなく、時間の経過とともに、影の方向が変わったり、近くにいた小舟がいなくなっていたり、と工夫が凝らされています。
まさに並べて鑑賞してこそ、時の流れを実感できる作品群といえます。

本書を購入したおかげで、このようにじっくり鑑賞することができ、本当に良かったと思います。
本書によりすべての作品を鑑賞できましたが、1ページに複数載っているケースが多かったことは残念。
いつか現寸で鑑賞したいものです。

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お気に入りその1331~トットてれび

2017-03-01 12:14:23 | 鬼平・竹鶴以外のお気に入り
今回のお気に入りは、トットてれびです。

やっと「トットてれび」全話を観ることができました。
本放送は、リフォーム工事による仮住まいのため、途中までしか観ることができず、残念に思っていました。
DVDが出てからはチャンネル権が無いため、スキを見て、まさにやっと観ることができたのでした。
・・・、そんな話はどうでもいい。
とにかく面白かったですねぇ。
まさか他局の「徹子の部屋」や「ザ・ベストテン」のセットをそっくりそのままに作って、ドラマの舞台にしてしまうとは思いませんでした。
脚本やキャスティングも、黒柳徹子から見たテレビ創成期を見事に表現していて素晴らしかったです。
やるね、NHK。

特に後半の、向田邦子・渥美清・森繁久彌との交流エピソードは最高でした。
ドラマで向田邦子を演じていたミムラが美しくて、知的で・・・。
とにかくとても魅力的でした。
一年前に読んでいる途中で紛失した「父の詫び状」が先日見つかってからは、ミムラをイメージしながら読みました。
向田さんは、とにかく文章がうまいですね。
その後も「思い出トランプ」を読み、今は「霊長類ヒト科動物図鑑」を読んでいます。

今年そば屋で読んだ雑誌に掲載されていた黒柳と向田和子(邦子の妹)の対談にあった、「毎日のように、ではなく、本当に毎日、向田の家に入り浸っていた」というエピソードがドラマにも登場していました。
その中で向田の美しい肖像写真が一瞬登場しますが、あれを撮影したのは向田が愛したプロカメラマンであり、黒柳が入り浸っていたころは、彼が亡くなった傷心の時期であり、随分姉は救われたと思う、と和子は述べていました。
それを知ってから観たため、あのワンシーンの重要さを強く感じました。

大切なおにいちゃん・渥美清との別れ。
丁寧に作られていて、素敵なシーンの連続でした。
体調の悪い渥美清を爆笑させた黒柳の天然ぶり、今でも大物ぶらずに天然ぶりを発揮しているので、誰もが想像できます。
「おじょうさんはバカですね」といいつつ、上機嫌で旅立ったであろう渥美の姿が想像できました。

老いた森繁久彌を「徹子の部屋」の収録を止めさせて、叱りつけたシーンには驚かされました。
「テレビジョンは楽しくなくてはなりません」
きっぱり言い切ります。
それに応えて「知床旅情」を静かに歌い上げる森繁。
台本で涙を隠しながら番組を進行する徹子。
実に感動的なシーンでした。
森繁の老いを理解しながらも、プロとしての底力を引き出させた、黒柳のプロ根性。
テレビジョンを楽しく見せることに、彼女がどれほど真剣に取り組んでいるかを理解しました。

テレビ創成期に「まっ白」な徹子を採用したNHKプロデューサーの慧眼に敬服します。
大物俳優も、浅草の芸人も、ど素人徹子も、みんなテレビ1年生でした。
そんな人たちと同期として堂々と渡り合った徹子。
これ以上「生き字引」という言葉が似合う人はいないのではないでしょうか?
それなのに大物ぶらない徹子さんを改めて見直しました。

「トットてれび」は、テレビ界のお宝ドラマだと思います。
創成期を知る人も知らない人も、興味深くかつ面白く観ることができたと思います。
実在の有名人物を演じた役者たちは、プレッシャーに押しつぶされそうになりながら演じたようです。
黒柳と満島ひかりの対談がDVDに入っていました。
キャスティングの段階で役者たちが、自分には無理と一度は断ったそう。
観ている方は面白がったり感動したりしていましたが、役者たちは大変な思いをしていたのですね。
原作、脚本、キャスティングが見事。
そしてブロデューサー、ディレクター、役者の制作に臨む姿勢が見事。
テレビ屋の先輩を敬う気持ちが具現化した、そういうドラマだったと思います。


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