鬼平や竹鶴~私のお気に入り~

60代前半のオヤジがお気に入りを書いています。

お気に入り1336~向田邦子③

2017-03-13 12:01:01 | 鬼平・竹鶴以外のお気に入り
今回のお気に入りは、霊長類ヒト科動物図鑑です。

向田作品3冊目。

とりあえずAMAZONの内容紹介を引用します。
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本作品は、著者が航空機墜落事故で急逝した年に刊行された。
「一週間に一度は飛行機のお世話になっていながら、まだ気を許してはいない。
散らかった部屋や抽斗のなかを片づけてから乗ろうかと思うのだが、いやいやあまり綺麗にすると、万一のことがあったとき、『やっぱりムシが知らせたんだね』などと言われそうで…」
飛行機に乗る恐怖を綴った「ヒコーキ」も収録。
何気ない日常の一コマを鮮やかに捉えた、向田邦子ならではの名人芸が堪能できる珠玉のエッセイ集。
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父も母も、皆いきいきとしていた台風の日の情景。
歳月が思い出にはめこんだ、見なかったはずの絵の記憶。
名乗った途端、電話口の声が様変わりする、女の声変わり。
なじみの店ではない店に足を運ぶ、小さな浮気―
優れた人間観察で人々の素顔を捉え、生の輝きを鮮やかに浮び上らせた、傑作揃いのエッセイ集。
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内容紹介にある通り、まさに「名人芸が堪能できる珠玉のエッセイ集」。
わずか6ページの中で繰り広げられる、珠玉の向田ワールドを52編も堪能することができました。
以前読んだAMAZONのカスタマーレビューで「向田邦子の文章が一番うまい。本を読むなら向田邦子だけを読むと良い」と先生から言われた、と書かれていたのを思い出します。
書き出し~展開~締め、言葉の選び方、どれをとっても超一流。

どのエッセイの感想を書こうかな、と思い、ネットで目次を探しましたが、途中までしか紹介されていませんでした。
それもそうです。
52編もあるのですから。
自分のために目次を記録しておきたいと思います。

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豆腐、寸劇、助け合い運動、傷だらけの茄子、浮気、無敵艦隊、女地図、新聞紙、布施、引き算、
少年、丁半、マリリン・モンロー、斬る、知った顔、小判イタダキ、写すひと、合唱団、警視総監賞、白い絵、
大統領、ポスト、旅枕、紐育(ニューヨーク)・雨、とげ、軽麺、男殺油地獄、お手本、西洋火事、あ,やられた、
味噌カツ、スリッパ、安全ピン、泥棒、孫の手、たっぷり派、ヒコーキ、ミンク、なかんずく、泣き虫、
良寛さま、お化け、声変り、脱いだ、いちじく、「う」、虫の季節、黒い縞馬、兎と亀、職員室、
電気どじょう、一番病
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こうして改めて題名を並べてみると、内容を思い出せるものがいくつもないことに愕然とします。
あんなに感心しながら読んだというのに・・・。
ただ記憶力は若いときから自信が無かったので、今に始まった話ではない、と自分自身に納得しました。
という訳で覚えている範囲で感想を書きます。

「警視総監賞」
刃物を手に女性を襲う常習犯をつかまえて警察に突き出した若き日の著者。
警視総監賞の話が持ち上がったが、父の一言で断ったそう。
「そんなのをもらったら嫁のもらい手がなくなる」
それ以来、賞からも?縁遠くなったが、先日直木賞をもらった、という締め。
素直に直木賞受賞の喜びを書かない著者の照れを感じて微笑ましい作品です。

「大統領」
20代のときに映画雑誌の記者をしていた著者が、大統領になったドナルド・レーガンの思い出を綴っています。
彼は二枚目だが、最後には彼女を主役に取られる役ばかりだったそう。
生涯、悪役や性格の悪い役をしなかったことでイメージが良かったのか、俳優協会の代表になり、政治の世界に入ったのでした。
後のタカ派大統領のイメージから、ジョン・ウエインのような役柄を演じていたのかと思っていましたが、随分違うことに驚きました。

「虫の季節」
年季の入った虫嫌いのため、友人の別荘には呼ばれなくなった、と嘆く著者。
子どもの頃の強烈な思い出を紹介しています。
寝ぼけて顔を洗い、タオルで顔を拭くと異物が当たりました。
目を開けるとタオルには潰れて昇天したキリギリスが!
悲鳴を聞きつけて駆けつけた父親が、著者の眉毛に引っかかった後脚を取りながら一言。
「虫の方が気の毒だ」
著者と同じく虫嫌いのはずの父親がとった、その行動とその言動は、瞬間、虫嫌いを忘れたようです。
ただ「娘のため」に集中したからこそできたことでしょう。
本編の締めの「虫編の文字で好きなのは“虹”だけだ」がお気に入りです。

その他、
おろしたてのカレンダーに誰もが抱く期待を書いた「豆腐」、
老眼鏡を直すのに老眼鏡が必要と笑いを誘う「助け合い運動」、
台風が来ると知り、妙に張り切る家族を描いた「傷だらけの茄子」、
今日は“新聞”、明日は“新聞紙”、3日目以降は“新聞ガミ”に変わる「新聞紙」、
とにかくどれをとっても傑作ばかり。
まさに、名人芸とはこれのことだ!と納得できるエッセイ集でした。

コメント
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