タバコ・ロード

 
 「ママ、煙草嫌いなくせに、そんな本読んでるの?」と坊に言われたが、「タバコ・ロード」とは別に喫煙王道のことではない。アメリカ南部ジョージアに残る、かつて栽培したタバコの葉を詰めた大樽を転がしてできた道のこと。

 コールドウェル「タバコ・ロード」は、スタインベック「怒りの葡萄」とともに、30年代アメリカ文学の代表作らしい。が、私にはいまいち感銘がない。アメリカ南部を舞台とした小説に独特の、大地への愛情というものが、私には共感できない。
 
 今ではタバコも綿花も育たない枯渇した土壌ジョージアの農村で、プア・ホワイトの一家が、食べるものにさえ事欠きながら、土地への執着を断ち切れずに終局を迎える。ストーリーは、派手なエピソードもなく淡々と進む。そもそもの状況が悲劇的なせいで、次から次へと起こる悲劇はもはや悲痛ではなく、滑稽ですらある。
 どん底の貧困のなか、食えないために人身御供に嫁に出した末娘の婿の持つカブラを、浅ましいまでに奪い合う一家。少年を新車で釣って結婚する、年増のいんちき女伝道師。車の警笛ばかり鳴らして喜んでいるが、結局は新車をパーにしてしまう薄らバカの少年。
 ……私の感性では許容できない無知で野卑な人間たちが繰り広げる、最低位の生活。

「神さまがおらを土地に置いてくだっさっただもん、神さまがちゃんと恵んでくださるだとも」
 そう神を信心しているかと思いきや、泥棒するわ密通するわの罪ばかり犯している。そのたびに、後から神に詫びるのだが、またぞろ同じことを繰り返す。
 最後までこの調子で、精神的なものがほとんどない。

 これがアメリカ南部の風土であるなら、アメリカ南部とは誠に恐ろしいところだ、と切に思ってしまう。

 画像は、W.ホーマー「綿花摘み」。
  ウィンスロー・ホーマー(Winslow Homer, 1836-1910, American)
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