世界をスケッチ旅行してまわりたい絵描きの卵の備忘録と雑記
魔法の絨毯 -美術館めぐりとスケッチ旅行-
黒猫の画家






性懲りもなく、今年もまた子猫を拾ってしまい、現在、里親募集中。ぶたぶたくんのようなグレーのまだら模様。ご希望の方はご連絡ください。
さて、私にとって猫を描く画家と言えば、スタンラン。この画家が結構有名なのは、黒猫のポスターのインパクトのおかげ。
テオフィル・アレクサンドル・スタンラン(Théophile-Alexandre Steinlen)。ロートレックと並び称される、「ベル・エポック(美しき時代)」の画家……と言われるが、正直、ロートレックほどの画力はない。ただ、無類の猫好きのせいで好んで描いた猫たちは、決して上手くはないのだが、素晴らしく特徴が捉えられている。
ロートレック同様、華やかで享楽的な、古き良き時代のパリの世相を描いた画家だが、ロートレックとは随分と眼線が異なる。ロートレックが描くのは盛り場の紳士淑女、そして商売女たち。一方、スタンランが描くのは貧しい庶民たちだった。
パリの繁栄の影に置き去りにされた、虐げられた弱者への共感。権力の不正、体制の腐敗、社会の不条理に対する批判。ロートレックの絵に比べて、スタンランの絵に懐古味がないのは、ゾラにも通ずる、こうした眼差しのせいだろう。こんな彼についた綽名は、「街のミレー」。
スイス、ローザンヌに生まれ、大学で神学を学ぶも、テキスタイル工場の図案家として職を得、パリのモンマルトルへと移る。以来、モンマルトルを離れることはなかった。
若きスタンランは、やがて、ゾラやヴェルヌ、ドビュッシーやサティなどの文化人が集まる、伝説的な文学キャバレー「シャ・ノワール(黒猫)」に出入りするようになる。ロートレックともここで知り合った。
そしてポスター「黒猫」を手がけたことで、彼の活動の方向は、ジャーナリズムでの挿画へと一気に定まる。
社会派の画家ではあったが、猫好きだったスタンランが本領を発揮でき、認知も人気も得た分野は、やはり猫の絵だった。ちょっと猫が多すぎるのだが、家が猫屋敷だったのだから仕方がない。
スタンランの描く猫は、しなやかでなまめかしい。ブルジョア連の飼うような上品に澄ました猫というよりは、家庭内野良のような野性的な猫たち。日本の化け猫にちょっと似通った雰囲気がある。
黒猫の黒に、三毛色の白と茶、そして少女の赤が、スタンランの主色。特にポピュラーなのは、ボブカットの娘コレットが猫たちと戯れるモチーフだった。
人生の正午を過ぎて、精神的な浮き沈みが現われるが、ロシアの作家ゴーリキーの肖像画を描いて、本人から絶賛されたり、第一次大戦に従軍し、戦争のリアルを描いたりと、活動が終息することはなかった。
パリにて死去。
画像は、スタンラン「黒猫」。
テオフィル・アレクサンドル・スタンラン
(Théophile-Alexandre Steinlen, 1859-1923, Swiss)
他、左から、
「突風」
「洗濯女」
「ヴァンジャンヌの殺菌牛乳」
「猫」
「猫崇拝」
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