80日間世界一周

 
 以前、ヴェルヌ「80日間世界一周」を読んでいたとき、相棒が、「知ってるよ、気球に乗って旅するんだよね」と言った。
 この、気球に乗ってロンドンを出発し、アルプスを越え、スペインに着地して闘牛……、という、印象的な一連のシーンは、原作にはない。が、あの有名なテーマ音楽は、気球で行く空の旅にぴったりだと思う。

 映画「80日間世界一周(Around the World in 80 Days)」は、英国紳士フォッグ氏が、従僕パスパルトゥーを連れて、全財産を賭けて80日間世界一周の旅に出る、という、原作と同じストーリー(監督:マイケル・アンダーソン、出演:デヴィッド・ニーブン、カンティンフラス、シャーリー・マクレーン、他)。
 が、やっぱり映像には映像のよさがあって、スペイン、インド、日本、アメリカ、と、スリルやロマンスのエピソード付きで、次から次へと現われる、誇張された文化と異国風景は、抜群のエンターテイメント。
 
 冒険物語と言っても、主人公フォッグ氏は、決して、未知なる世界を求めて世界旅行に旅立ったわけではない。相変わらず部屋にこもってホイストをし、ティー・タイムにはお茶を飲む、といったような、イギリスにいるのと変わらない生活パターンを保とうとする。
 だから、冒険の過程で葛藤・格闘したり、成長したりするということが、ほとんどない。それが、あくまで寡黙で沈着冷静な、皮肉なくらいコチンコチンの英国紳士、という典型的キャラクター(フランス人ヴェルヌの描いたものなので余計)と相俟って、原作では、ややもすると、フォッグ氏の醸す英国的雰囲気に気圧されて、異国情緒が霞むことがあった。

 が、映画のほうでは、常にエキゾチックな情景が眼に映り、おまけにフォッグ氏自身も、原作に比べて大いに熱血多感。喜劇的なパスパルトゥーと、よい対照をなしていた。 

 この映画には、数え切れないほどの世界的スターが、旅行店の店主やクラブのピアノ弾き、列車の車掌などのチョイ役で、特別出演しているらしい。私は、往年の映画スターには疎いので、誰が誰だか分からなかったが、エンターテイメントに徹した、旺盛なサービス。
 
 とにかく、理屈の要らない、幸せな娯楽映画だと思う。

 画像は、パール「気球」。
  シニェイ・メルシェ・パール(Szinyei Merse Pal, 1845-1920, Hungarian)

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