世界をスケッチ旅行してまわりたい絵描きの卵の備忘録と雑記
魔法の絨毯 -美術館めぐりとスケッチ旅行-
80日間世界一周
ヴェルヌ「80日間世界一周」は、難しいこと言いっこなしの、痛快な冒険物語。
舞台は1870年代のロンドン。ふとしたきっかけで、クラブのカード仲間と、80日間で世界を一周できるか否かの賭けをした紳士フォッグ氏は、それを実証すべく、従僕パスパルトゥーを連れて出発する。
フォッグ氏はいかにも紳士然とした冷静さを崩さずに、次から次へと巻き起こる不測の事態にも動じることなく、意志と機転と札束の力で打開していく。その一方で、インドでは生贄として夫の死体とともに焼かれそうになるアウダ夫人を、アメリカではインディアンの襲撃により捕虜となった従僕を、救出するのに決断をためらわない。気の好い若者パスパルトゥーは、そんな主人に惹かれながらお供する。
ロンドンからスエズ、インド、香港、横浜、アメリカ、そして再びロンドンへと、あるいは船で、あるいは鉄道で、はたまた象に乗って、橇を駆って、旅を続けるうちに、途中、命を救われたアウダ夫人、フォッグ氏を強盗犯と信じて執拗に追いかける刑事フィックスが加わって、まさに旅の行方ははらはらどきどき。最後には、莫大な財産を失ったかに見えたフォッグ氏が、金では買うことのできない幸福を手に入れて、おまけに、どんでん返しのハッピーエンド。
……鬱なときは思い切って、底抜けに明るい物語を読むとよい。
当時と言えば、イギリスがヴィクトリア女王のもと、一大植民地を築き上げた、大英帝国君臨の時代。日本では明治維新によって近代化がスタートし、アメリカでは西部開拓のフロンティアが太平洋岸に達しようとした頃。
物語でも、パスパルトゥーが横浜を無一文で、着物を着た婦人や両刀を腰に差した役人らのあいだを縫ってぶらつくあたり、また、フォッグ氏が、立派な商店が整然と軒を並べるサンフランシスコで、入り乱れる市民大会の群集に巻き込まれるあたり、それらの歴史的情景が伝わってくる。
私も世界旅行に行きたいなー。理屈なんて要らない。ヴェルヌの言うとおり、「誰でも、もっと得るものが少なくても、世界一周をするのではなかろうか?」
画像は、M.プレンダーガスト「象」。
モーリス・プレンダーガスト(Maurice Prendergast, 1858-1924, American)
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