ギリシャ神話あれこれ:両性具有の神さま

 
 “おしりかじり虫”という、しょーもない歌(?)があるのだが、あるときふと訳もなく、それを“ヘルマフロディトス”という語に置き換えたら、ピッタリとフィットした。以来、私の脳は、滅多なことでは私の日常に登場しない“おしりかじり虫”の歌が、TVや有線で流れようものなら、すぐさまそれを“ヘルマフロディトス”に置き換えてしまう。
 脳のインプットって、怖ろしい。

 ヘルマフロディトスというのは、ギリシャ神話に出てくる両性具有神。素晴らしい美貌の青年神なのだが、丸々とした乳房を持っている。
 ので、男女両性を備えているとされるのだが、彼が妊娠・出産の能力をも持つのかどうか。……私の率直な疑問には、どうも答えてもらえない。

 イダ山のニンフたちに育てられた彼だが、その出自は申し分がなく、父はヘルメス、母はアフロディテ。で、両親の名をそのまま安直にくっつけたのが、彼の長ったらしい名前の由来というわけ。

 あるときヘルマフロディトスは、カリアの森でサルマキスの泉に遭遇する。泉の精サルマキスは、この麗しい美青年に一目惚れ。情欲の炎にカッと身を焦がし、熱烈な恋の文句を飛ばしながら猛然と突撃する。好き、好き、どうか私を抱いて!
 好色な両親を持ちながら、結構純朴だったヘルマフロディトス。サルマキスの激越な求愛ぶりにたじろいで、彼女の誘惑を咎めると、彼女のほうはあっさりと引き下がったかに見えた。
 が。

 断られたって拒まれたって何のその。サルマキスはなおメラメラと心も体も燃え立たせ、草木の陰に身を隠してヘルマフロディトスの様子を窺う。彼のほうは彼女が立ち去ったと安易に合点して、暑さのなか、着ているものを脱ぎ去って泉で水浴びをば……
 途端に、サルマキスが飛び出しがてら、自分も真っ裸になって、泉へと飛び込んだ。遮二無二接吻を浴びせながらヘルマフロディトスの裸体を抱き締め、情熱のままに神々に訴える。どうか、どうか、二人が永遠に一つになりますように!

 こんな強姦紛いの行為を永遠化してくれという、祈りと言うよりむしろ呪いを、どんな神々が叶えてやったのやら。二人の肉体は一つに溶け合い、ヘルマフロディトスの身体の線はなよやかな丸みを帯び、胸は顕わに膨らんで……
 こうして乳房と男根を持つ美しいオトコオンナが誕生した。

 ちなみに、ヘルマフロディトスのほうは、おのれの肉体の変貌をいたく嘆き、恥じ、憤って、この泉の水を浴びた者は自分と同じような身体になるように、と両親に願った。以来、サルマキスの泉は男性を不能にするのだという。

 画像は、ナヴェ「ニンフのサルマキスとヘルマフロディトス」。
  フランソワ=ジョセフ・ナヴェ(Francois-Joseph Navez, 1787-1869, Belgian)
 
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