夢の話:人を殺す感覚 その2(続々)

 
 が、あくまで彼は私の思慮に訴えた。実力の上では雲泥の差もあるサラザンを相手に、彼は痛々しいほどの努力をして、サラザンの存在の弊害を私に説き伏せた。

 階級闘争、殊にイデオロギー闘争において、サラザンのような科学一辺倒の、つまりイデオロギー・フリーの、平和的・民主的立場は、本人の意図に関わらず、体制の暴力的性格を看過し、体制維持に与する日和見主義に終わってしまう。こうした過ちは往々、知的エリートに見られるものだ。君の弱点と同じ弱点を、彼は持っているのだ。
 ……これが、ピエーロ氏から入れ知恵され、後にはすっかり彼自身の発想と思い込んだ、ハーゲン氏の言い分だった。
 
 サラザンは私の置かれた状況を理解していたし、もし私が問えば、隠し立てなく答える公明さを持ってもいた。
 が、当の私は、この頃、サラザンにはほとんど興味がなかったのだった。私は彼に事情を尋ねもしなかったし、問いただしもしなかった。
 彼と親しくなろうとしない私を、サラザンは、ハーゲン氏に何か偽りの、好からぬ評価を植えつけられているせいだ、と考えていた。

 さて、現実世界のこうした事情を背景に、私は再び人を殺す夢を見たのだが、その内容はいささか劇画チックで、今から思うと笑えるものがある。が、まあ、夢の話に移るとしよう。

 夢のなかで、私はハーゲン氏と一緒に行動していた。彼はレジスタンスの地下組織のメンバーで、ピエーロ氏の指揮下、その特命を帯びて動いていた。それにはどうしても市民が一人必要だということで、ハーゲン氏は私を連れていたのだった。
 私にとって彼と行動を共にするということは、一種の恋の逃避行だった。祖国は侵略、占領され、他国家とその軍によって自由は制約されて、生活も苦しかったが、抵抗さえしなければ生存は保障されていた。そこへハーゲン氏が突然現われたのだ。

 To be continued...

 画像は、プリンセップ「革命」。
  ヴァレンティン・キャメロン・プリンセップ
   (Valentine Cameron Prinsep, 1838-1904, British)


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