ジャック・ザ・リッパーのミステリー

 
 パトリシア・コーンウェル「真相―“切り裂きジャック”は誰なのか?」を読んだ。私ってば、何をジャンクな本、読んでるんだかねー。

 切り裂きジャック(Jack the Ripper)とはご存知、ビクトリア朝末期に起こった猟奇的な連続殺人事件の犯人。1888年の2ヶ月間に、ロンドンのイースト・エンドやホワイトチャペルで、少なくとも5人(実際にはおそらくそれ以上)の娼婦が喉を掻き切られて殺された上、遺骸を切り刻まれ、腎臓や子宮などの臓器を取り出された。その間、犯行に関する何百通という署名入りの手紙が、警察や新聞社に送りつけられている。
 この惨殺事件は当時、ロンドンじゅうを震撼させたが、犯人の足取りを追うことさえできないまま、結局迷宮入りとなった。真犯人については、今日に到るまで様々な説がある。

 「検視官」シリーズで人気のアメリカのミステリー作家、コーンウェル女史は、この本で大胆にも、イギリスの画家ウォルター・シッカートを、切り裂きジャックと断定、諸種の資料を分析・検証している。シッカートは日本ではあまり知られていないが、フランス印象派を導入し、モダニズムへの道を開いた画家として、イギリス絵画史上かなり重要な位置にある。
 真相解明に向かう女史の意欲は凄まじく、自身のキャリアを賭けてシッカートを犯人と名指し、実に7億円もの私費を投じて資料を入手、あらゆる専門家を動員して分析した。

 この本で提示されている数少ない物的証拠は、切り裂きジャックやシッカートが出した手紙の封筒・切手に付着した唾液から、複数のミトコンドリアDNAを検出、そのうちのいくつかの塩基配列が一致した、というもの。ただ、シッカートは死後、自分の遺体を火葬させたため、照合できる彼本人のDNAは残っていない。
 もう一つは、切り裂きジャックとシッカートの手紙の便箋の透かしが一致する、というもの。
 が、これらはいずれもシッカートを切り裂きジャックと断定するに足るものではない。で畢竟、「かも知れない」、「と思われる」などの表現ばかりが出てくる。ちょっと辟易。
 
 To be continued...

 画像は、シッカート「カムデン・タウンの事件」。
  ウォルター・リチャード・シッカート(Walter Richard Sickert, 1860-1942, British)

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