魔の国境越え、再び(続々々々々々)

 
 徐々に鬼のような坂道になってくる。イタリアらしい白壁と赤茶い瓦屋根の家々。庭には白樺や、モミだかトウヒだかの針葉樹に混じって、棕櫚がニョキッと植わっていたりする。
 坂を上るごとに、振り返ると眼下に海が青く開けてくる。慰み程度だが潮風が吹いてくれるのが、ありがたい。

 丘への道が一本化してきて、品のよいお婆さんと一緒になる。ボンジョルノ。どこから来たの? ジャッポーネ?
「この道はスロヴェニアに通じていますよね?」
「ヨー、通じてますよ。スロヴェニアのどこまで行くの? カポディストリア!? オ~ッ……」
 お婆さん、それは犯罪的だわ、と言わんばかりに、眼球をぐりぐりとまわして呻いてみせる。

 坂だし、陽が照ってて暑いしで、あとは互いにゼーゼー喘ぎながら、言葉少なに歩き続ける。そのうちにお婆さんが遅れ始めた。
 お婆さんはこの辺に住んでるんだろうから、ゆっくり歩いたって別に何も問題ないんだろうけど、置いてけぼりにするのは気が引けて、私たちもペースを落とす。
 で、相棒、単語をちょっと知っているだけのイタリア語で、海を振り返って、婆さんに唐突に言ったことには……
「ベリッシマ(=最高に美しい)!」

 これは多分、「海」の名詞の性に間違った語尾変化をしたんだと思う。婆さんは一瞬、自分のことを言われたと思ったに違いない。パアッ! と若々しく顔を輝かせ、それから、苦笑気味の照れ笑いを浮かべて、内省するように自分に向かってしきりにうなずいていた。

 とうとう婆さんが、息を切らして立ち止まる。そして、先を行く私たちに、後ろから声をかけた。
「もうほんの何メートルか先ですよ。そこが国境よ」
「グラツェ、チャオ!」

 お婆さんに手を振って別れ、さらに坂を上ると、国境に来た。

 To be continued...

 画像は、ムッジャ、旧国境検問所(多分)。

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