ギリシャ神話あれこれ:眠れる美男

 
 エリスを建国した、ゼウスの血を引くエンデュミオンは、人間とは思えないほど優れて美しい容姿だった。つまり、世界一の美男。
 エリス王のはずなのだが、羊飼い。彼は山で牧羊し、羊たちと戯れながら眠るのだった。あるとき、山の頂に眠るこの世にも美しい青年を、たった一目見た月の女神セレネは、たちまち恋に落ちてしまう。

 逢瀬を重ねるセレネだったが、別離はつらいし、エンデュミオンが老いていく姿を見たくはない。人間はやがて醜く老い衰えて、不死の女神を残して死んでいく。その悲嘆のさまを、セレネは、妹エオスの数多くの経験を見て知っている。
 で、セレネは愛人エンデュミオンの不老不死を、ゼウスに乞い願う。この願いは叶えられたのだが、人間の不老不死には、どこかしら欠陥がある。エンデュミオンの場合、それは、彼が眠り続けるということだった。

 こうしてエンデュミオンは、生きて永遠に眠り続ける。それは死の眠りに等しいのだが、エンデュミオンは息をしている。肌も温かい。心臓も打っている。いつまでも若く、美しいまま。
 そしてセレネは、夜な夜な、ラトモス山中の洞窟に眠るエンデュミオンを訪れる。月光に照らされて眠る愛人に寄り添い、愛撫し、抱擁する。

 月の女神に愛されて、永遠の眠りを眠る美青年。……絶世の美男アドニスよりも、エンデュミオンのほうがはるかに絵になるのは、月の女神と、夜と月光、そして眠りという一連の神秘性。
 けど、考えてみれば、それだけの話。

 画像は、ポインター「エンデュミオンの夢」。
  エドワード・ジョン・ポインター(Edward John Poynter, 1836-1919, British)

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